勤務先:東京都世田谷区・認可保育園 職歴:認可外保育所、託児所、保育ママ、認証保育所、認可保育所 園長先生歴:30年以上 趣味:観葉植物を育てること
ー秋元先生が保育において大切にしていることを教えてください。
子ども一人ひとりの権利を尊重しながら、子どもが主体的に育つことを大切にしています。自然や文化にふれながら遊ぶことによって、自分で考え、自分で選択し、自分から行動する子になってもらえたらと思っています。
ーそのために工夫されているのは、どんなことでしょうか?
たとえば、広い園庭で遊んだり、泥遊びをしたり、畑仕事をしたり、さまざまな取り組みをしています。子どもたちにいろいろな体験をしてもらいたいのです。
卒園証書の紙は、年長児と先生たちが一緒にいちから作っています。コウゾやミツマタといった紙の材料を育てて収穫し、紙すきをして作ります。紙は冬の乾いた風にさらすことで丈夫になるので、寒い時期に行っているのですが、きっと「冷たかった」「大変だった」「手がかじかんだ」「でも面白かった」などという感覚が記憶に残ると思います。
冬至には柚子入りの足湯をしているんですが、これも感覚と記憶は結びつきやすいからです。私はこうしたアイデアを出すのが好きで、いろいろと企画しています。
ー地域とのつながりも大切にされているとお聞きしました。
うちの園は商店街の組合に加入しています。私は商店街が好きで、他の保育所を作った際も組合に加入していました。そうすると、子どもたちのお散歩のときも、みなさんが声をかけてくださったりして、地域とのつながりができます。さらに保護者のみなさんも商店街で買い物することが増えたり、子どもたちも商店街で見守ってもらえたり、いいことがたくさんあるんです。
今の園では、商店街の七夕イベントで子どもたちが短冊を書いたり、商店街にNHKのEテレの『みたてるふぉーぜ』という番組からオファーがあった時に「見立てが上手だろう」と子どもたちが出演して、保護者のみなさんが喜ばれたこともありました。
それから、商店街に加盟していると地元通貨が使えるのですが、給食費や延長保育料の支払いに使うことで保護者のみなさんに少しでも還元できる仕組みが私はとてもいいなと思っています。
ー保育園も商店街の組合に加入できるんですね! 初めて聞きました。
子どもたちは保育園内だけでなく、地域で育っていきます。だから地域の人たちと、普段から理解し合うことはとても大切なのです。また保育園にはたくさんの子どもがいますから、災害などの有事の際には周囲に助けをお願いすることがあるかもしれません。ですから、地域との交流はすごく大事なことだと思っています。
ー保育の仕事のどんな部分にやりがいを感じていらっしゃいますか?
保育に関わる人間は「子どもの今と未来を支える子育てのパートナー」だと私は思っています。だから、子どもたちが成長した喜びを、保護者のみなさんと分かち合うことはとても嬉しく、大きなやりがいです。
ー園長として大事にされていることは、どんなことでしょうか?
一つは、何事も子ども目線でしっかり考えること。これは職員が安心して働くことにもつながると思っています。
もう一つは人材育成です。職員一人ひとりの成長が「保育の質」に直結しますから、人材育成は不可欠。法人では育成の仕組みの一つとして人事評価制度を導入し、人間力向上につながる勉強会も定期的に行っています。しかし、一般企業に比べて、園では役職が限られています。ですから役職だけではなく、さまざまな分野で活躍できる保育士を育てるという視点も必要だと考え、個別の委員会を設けました。
たとえば、障がい児保育委員会、保護者支援委員会、リスクマネジメント委員会、そとあそび委員会(遊びの動線を考えたり、環境づくりを工夫したり)などの委員会を作って、各自が専門性を高めています。園長として職員のスキルアップを支援し、目標を持って長く働いてもらえたらと願っています。
ー保育園運営の「ここが大変」という部分を教えてください。
やっぱり全職員が同じ「保育理念」を共有することが大切ですが、それが難しく、大変な部分だと思います。保育士や職員のみなさんは、それぞれに年齢や性格はもちろん、育った環境や背景も、保育士資格をとった年の「保育指針」も違うので、やはり感覚に違いがあります。それをどう統一していくか、というのは難しく、努力が必要です。
ー秋元先生が保育の仕事を選ばれたきっかけを教えてください。
かなり年齢の離れた弟と妹がいて、とてもかわいく思っていたことが最初のきっかけかもしれません。それでも当初は特に仕事にしたいという思いはなかったのですが、大学で進路を考える際、好きな仕事に携わりたいと思って決めました。
ー大学卒業後、すぐに保育の世界に入られたのでしょうか?
最初は認可外保育所2園に計10年ほど勤務したのですが、それぞれに個性のある園で、海外研修を受けたりと、さまざまなことを学ばせていただきました。その後、結婚・出産を経て、同級生が子どもの預け先に困っていたこともあり、自分の子どもも一緒にみられるようにと託児所を開業して独立。少人数保育をしていたのですが、5年目に体調を崩しいったん閉めることになりました。
ーそれは大変でしたね。その後、どうされたのでしょうか?
1年ほど公共施設の臨時職員として勤めたのですが、あまり向いていなかったのか、1日が長く感じられて……(笑)。我が子が小学1年生になったときに、自宅で保育ママの仕事を始め、保育業界へ復帰しました。
その後は、区から保育室をやらないかとお声がけいただいたので、NPO団体を立ち上げて保育室を始めました。さらに区の認可保育所の公募に手をあげ、2014年に社会福祉法人を設立し「桜すくすく保育園」を開園。今年で10年目ですね。さらに2021年に「つむぎ保育園」「ほっとステイSUKUSUKU」という一時保育施設を商店街とのコラボ事業として立ち上げました。
ー今後の目標や課題があれば、教えてください。
保育に関わる人が働きやすい環境づくりを目指しています。私たちを取り巻く環境は日々変化していて、保育・教育業界の課題も変化し続けています。たとえば、保育のICT導入は、ほんの10年前。当初は保育計画や登降園をシステム管理することについて批判的な声もありました。しかし、今ではICTを導入したことで業務が省力化できています。そのぶん、本来の業務に向き合えたりと、「働きやすい環境づくり」につながっているはずです。今後もこうした新しいものを取り入れていけたらと思っています。
それから就学前の保育にとどまらず、生まれてから、そして卒園してからも地域に頼られる、なくてはならない「子育ての拠点」になっていくことを目指しています。
ー最後に、これから保育業界を目指す人に一言お願いします。
どの分野でも待遇や条件のよい職場を選ぶことは大事ですが、保育園は「町のインフラ」です。そして、保育の仕事は、人として自分磨きができる職業だと思っています。
もちろん、ご自身の結婚、妊娠・出産や子育てなども大事だし、ワークライフバランスを考える必要がありますが、この仕事を続けるために必要なのは、やっぱり「子どもが好き」という気持ちだと思います。
子どもが大好きで、体力に自信がある方、ぜひ一緒に働きましょう!
(取材・文:大西まお、撮影:中村隆一、編集:ホイシル編集部)