専門職であるにもかかわらず低賃金だといわれる保育士の雇用問題は、そのまま保育人材不足に繋がっています。保育サービスを充実させるためには、保育士の待遇改善を行うことが重要です。
保育士の賃金を底上げするため、国や自治体では様々な施策が実施されています。平成29年に導入された処遇改善等加算Ⅱもその1つで、保育士のキャリアアップと賃金アップを同時に支援しようという試みです。処遇改善等加算Ⅱの内容を詳しく見ていきましょう。
保育士の処遇改善等加算とは
保育士の処遇改善等加算とは、国が行う保育士の賃金を上げるための補助金制度です。平成27年度には処遇改善等加算Ⅰが、平成29年度には処遇改善等加算Ⅱが導入されました。どちらも保育士の賃金を底上げするための制度ですが、対象となる保育士や賃金引き上げの方法に違いがあります。
保育士の処遇改善等加算Ⅰとは
保育士処遇改善等加算Ⅰは、次の3つの要素別に保育士の賃金引き上げを補助する制度です。対象となるのは、非正規雇用も含めた保育士全員です。
・保育士の勤続年数によって賃金を一定率加算
・基準年度から保育士の賃金アップを行った施設に加算
・職員の研修などキャリアアップに努めている施設に加算
処遇改善等加算Ⅰについて、詳しくは以下の記事をご覧ください。
保育士の処遇改善等加算Ⅱとは
保育士の処遇改善等加算Ⅱとは、中堅役職を新設したうえで、特定の役職を持つ保育士に対し補助金を出す制度です。これら役職に就くためには、研修を受講して専門性を高める必要があります。
保育士の処遇改善等加算Ⅱは保育士のキャリアアップの仕組みを整えるとともに、賃金改善にもつなげようとする試みです。次項でその内容を詳しく見ていきましょう。
保育士の処遇改善等加算Ⅱの仕組み
処遇改善等加算Ⅱの仕組みについて具体的に見ていきましょう。
処遇改善等加算Ⅱの対象となる役職は3つ
一般的な会社では、社長、副社長以外にも、専務、常務、部長、次長、課長などたくさんの役職が存在します。役職が上がるごとに仕事の権限拡大と賃金上昇が約束されており、キャリアパスが描きやすくなっています。
一方で保育園には、園長、副園長の他には主任保育士ぐらいしか役職がありませんでした。若い保育士にとって、キャリアアップの道が見えにくい世界と言えます。これではモチベーションを維持しづらくなります。
そこで処遇改善等加算Ⅱの導入に際し、比較的キャリアの浅い保育士でも任命されやすい3つの役職が新設されました。処遇改善等加算Ⅱの加算は、この3つの役職に対し行われます。
【職務分野別リーダー】
食育・アレルギーリーダーや障害児保育リーダーなど、特定の保育分野でリーダーとして活躍します。経験年数おおむね3年以上の保育士が対象となっており、比較的若い保育士でも就きやすい役職です。
【専門リーダー】
主任保育士と若手保育士の中間に位置する役職です。職務内容としては、特定の保育分野でリーダー的な立場をとります。職務分野別リーダーと内容は似ていますが、経験年数おおむね7年以上の中堅保育士が対象となっています。
専門リーダーになるためには、職務分野別リーダーを経験している必要があります。職務分野別リーダーの1つ上の役職と考えると分かりやすいでしょう。
【副主任保育士】
主任保育士と若手保育士の中間に位置する役職という点では、専門リーダーと似ています。経験年数おおむね7年以上で、職務分野別リーダーを経験した中堅保育士が対象という点でも同じです。
ただし役割は少し異なります。副主任保育士は、主任保育士の補佐をしつつ若手保育士の教育にも努めるという立場です。人材育成に関わるためマネジメント的な仕事を期待される役職になります。
処遇改善等加算Ⅱの対象者になるには?
処遇改善等加算Ⅱは、職務分野別リーダー、専門リーダー、副主任保育士の役職を対象に支給されます。
役職に就くためには、まず役職別に定められた経験年数を満たす必要があります。次にキャリアアップ研修を受講し、修了証を受け取ります(キャリアアップ研修にはいくつかの種類があり、役職ごとに受講しなければならない分野と研修数が異なります)。
経験年数とキャリアアップ研修終了条件を満たした後、保育園側で役職への発令を受ければ役職に就任できます。
キャリアアップ研修とは
キャリアアップ研修は、都道府県又は都道府県知事の指定した研修実施機関で実施されます。研修分野は次の8つに分かれています。
①乳児保育(0~3歳未満児向けの保育について)
②幼児教育(3歳以上児向けの保育について)
③障害児保育(障害児の発達援助や支援機関との連携等について)
④食育とアレルギー(食育計画の作成や、アレルギーへの理解等について)
⑤保健衛生と安全対策(事故防止や感染症対策等について)
⑥保護者支援と子育て支援(保護者に対する相談業務や虐待防止等について)
⑦マネジメント(マネジメントや人材育成等について)
⑧保育実践(潜在保育士など保育現場経験が少ない人向けの研修)
各職務別に受講しなければならない研修の種類や数は以下のようになります。
・職務分野別リーダー:担当する職務の研修(①~⑥の研修)
・専門リーダー:4つ以上の分野の研修
・副主任保育士:⑦のマネジメント+3つ以上の分野の研修
処遇改善等加算Ⅱで賃金はどのぐらいアップする?
処遇改善等加算Ⅱでは、役職別に以下の金額が加算されます。
・職務分野別リーダー:月額5千円
・専門リーダー:月額4万円
・副主任保育士:月額4万円
処遇改善等加算Ⅱの注意点
処遇改善等加算Ⅱは保育士のキャリアアップと賃金引き上げを図るための施策です。
しかし、役職についたからといって必ず特定の賃金が加算されるというわけではありません。
処遇改善等加算Ⅱの補助金は保育園側が行政に申請して初めて支給されるものです。勤務先の保育園が申請を行うかどうかは分かりません。
処遇改善等加算Ⅱで支給された賃金は、3つの役職とは他の役職や職員への分配が認められている点にも注意が必要です。例えば専門リーダーと副主任保育士が5人いれば、月額4万×5=20万円の補助を受けられますが、このうちの一部の金額を別の保育士に配分することができます。副主任保育士なら必ず4万全額受け取れるとは限らず、一部の金額が主任保育士や職務分野別リーダーに分配される可能性もあるということです。処遇改善等加算の制度は、勤務園の方針によって使い方が変わってくるという点には注意しておきましょう。
保育士への補助金制度は自治体ベースでも行われている
保育士への補助金制度は処遇改善等加算だけではありません。各自治体が独自に行っている家賃補助制度や就職準備金制度などもあります。
こちらの記事では、保育士への様々な支援策を解説しています。
保育士の処遇改善でキャリアパスを描こう
処遇改善等加算手当Ⅱが導入されることで、保育士の中堅役職が新設され、キャリアパスを描きやすくなりました。比較的若手の保育士でも役職に就くことができるようになり、これにともなった昇給の仕組みも整いつつあります。
保育士の賃金が安いという問題に焦点が当たり、様々な施策が行われているのはこれから保育士を目指す人にとって明るいニュースです。専門職として保育士が好待遇の仕事になるのもそう遠い未来ではないかもしれません。