保育士として就職先を探す場合、毎月の月収や手当、賞与などの収入面を気にする方は多いでしょう。
しかし、退職金制度については見落としている方もいるのではないでしょうか。
退職金の有無やどの程度もらえるかによって退職後の生活が変わるため、退職金制度は就職先を探す際の重要なポイントといえます。
ここでは、保育士に退職金はあるのか、相場はどのくらいなのか、退職金を受け取る条件やタイミングなどについて解説いたします。
意外と見落としがちな保育士の退職金について、これから保育士として就職活動する方はぜひ参考にしてみてください。
そもそも退職金とは?
退職金とは、働いている職場を退職する際に、雇い主などから退職者に支給される金銭のことです。
「退職手当」「退職慰労金」などとも呼ばれます。
退職金が支給される制度のことを、正式には「退職給付制度」と呼びますが、一般的には「退職金制度」と呼ばれることが多いようです。
退職金の支給対象は以下のとおりです。
・定年退職するとき
・自己都合で退職するとき
・解雇を受けたとき
・従業員が死亡したとき
厚生労働省のデータによると、医療・福祉の事業者で退職金制度を導入している事業者数は、全体の87.3%と記されています。
出典:平成30年就労条件総合調査/厚生労働省
保育士に退職金はある?
保育士の退職金の有無は、勤める園が私立保育園か公立保育園かなどの「運営形態」によって異なります。
ここでは私立保育園と公立保育園の違いを解説いたします。
私立保育園の場合
私立保育園で働く保育士の場合、退職金の支給については法律で定められていないため、「一般的な企業の会社員」と同じような位置づけとなります。
そのため、退職金の有無や条件は、保育園ごとに規定されている「就業規則」によって異なります。
なかには退職金制度がない保育園もありますが、一般的には常勤保育士に対しては退職金が支給されるケースがほとんどのようです。
退職金制度がある施設でも、非常勤やパート保育士などの勤務形態の場合、退職金は支給対象外であることが多いようです。
公立保育園の場合
公立保育園で働く保育士の場合、常勤保育士は「地方公務員」とみなされます。
そのため、保育士の退職金に関しても、地方公務員と同じ待遇を受けることができます。
自治体ごとの条例で定められた制度によって退職金が用意されており、地方公務員と同じ額が支給されます。
退職金の支給対象となる保育士の条件は「勤務年数1年以上」です。
ただし、非常勤保育士の場合は退職金の支給対象外となります。
保育士の退職金の相場
施設の運営形態や勤務形態により異なりますが、多くの公立保育園や私立保育園で退職金は支給されるようです。
では実際、どれくらい退職金がもらえるのでしょうか。
退職金は、一般的にいくつかの条件により算出されるため、計算方法を知っていれば計算することができます。
ここでは、保育士の退職金の相場や計算方法を紹介します。
私立保育園の退職金の相場と計算方法について
私立保育園には「社会福祉法人」が運営する保育園と「株式会社」が運営する保育園があり、それぞれ退職金のシステムが異なります。
〇社会福祉法人が運営する保育園の場合
保育士の退職金の計算は、福祉医療機構のウェブサイトにある「退職手当金計算シミュレーション」を使用して計算することができます。
・勤続年数 ・退職前6か月の平均基本給 ・退職理由 |
上記の項目を入力することで退職金の金額が算出されます。
・勤続年数10年 ・基本給25~26万円 ・普通退職 |
たとえば、上記の条件で計算した場合、退職金は「約130万円」となります。
あくまで一定条件でのシミュレーション数値のため確定した額ではありませんが、
大まかな相場を知るための参考になるでしょう。
出典:退職手当金計算シミュレーション/WAM 独立行政法人福祉医療機構
〇株式会社が運営する保育園の場合
株式会社が運営する保育園で退職金がある場合は、以下の2種類があります。
・退職手当共済制度に加入している場合
・独自の退職金制度を適用している場合
会社独自の退職金制度を適用している保育園の場合、退職金の有無や金額は、運営元である株式会社の状況により差があります。そもそも退職金制度がない場合もあるため、注意が必要です。
社会福祉施設職員等退職手当共済制度とは
社会福祉職員等退職手当共済法の規定に基づき、社会福祉法人の経営する社会福祉施設、特定介護保険施設や申出施設などに従事する職員が退職した場合に、その職員に対し退職手当金の支給を行う制度です。
【退職手当金支給額の例(普通退職の場合)】
・5年間勤務して退職(退職時本俸月額20万円)‥49万5900円
・10年間勤務して退職(退職時本俸月額22万円)‥114万8400円
・15年間勤務して退職(退職時本俸月額26万円)‥269万7000円
・20年間勤務して退職(退職時本俸月額28万円)‥572万4600円
出典:WAM 独立行政法人福祉医療機構
公立保育園の退職金の相場と計算方法について
公立保育園で働く保育士の場合、「公務員の退職手当制度」によって、以下のように計算が決められています。
退職金=基本額+調整額 |
基本額:退職日給料月額×退職理由別、勤続年数別支給率
調整額:調整月額のうちその額が多いものから60か月分の額を合計した額
公立保育園の保育士の場合、勤続年数が長いほど退職金が高くなります。
細かい条件はありますが、新卒で入社し定年(60歳)まで勤務した場合の退職金は約2,000万円前後支給されるようです。
調整額が支給されない場合もあるため注意
公立保育園の退職金は「基本額に調整額が加算された金額」です。
しかし、調整額がもらえない場合もあるため注意が必要です。
具体的には下記のとおりです。
・勤続期間が6か月未満で退職した場合
・自己都合退職者で勤続期間9年未満の場合
・何らかの違法行為を行って退職し、退職日から3か月前までに処分を受けた場合
出典:地方公務員の退職手当制度について/総務省
保育士が退職金を受け取るための条件
保育士が退職金を受け取るためには、公立保育園、私立保育園とも条件があります。
条件を知らずに「退職金がもらえなかった」といったことがないよう、退職金を受け取ることができる条件について確認しておきましょう。
退職金を受け取ることができる対象者
まずは退職金を受け取ることができる対象者についてです。
公立保育園、私立保育園とも基本的に退職金を受け取ることができるのは正社員のみです。
パートや非常勤の保育は退職金の対象外となっている保育園が多いため注意が必要です。
退職金を受け取るための勤続年数
公立保育園で働く保育士は、退職金受給の資格として、1年以上の勤続年数が必要です。
私立保育園の保育士が退職金をもらえる条件は、勤める園によりさまざまですが、一般的に勤続年数が3年以上となっています。
ただし、退職金共済に加入している保育園であれば、勤続1年以上で退職金を受け取ることが可能です。
退職金共済は毎月、共済に定額で積み立てることで、将来退職したときに退職金がもらえる制度のため、月々の積立金が必要です。
保育士が退職金をもらえる時期
退職後は毎月の給料がもらえなくなるため、退職金はもらえる金額とともに時期も重要です。
ここでは、保育士が退職金をもらえる時期について解説します。
私立保育園の場合
退職金共済に加入している私立保育園では、福祉医療機構に退職手当請求書を申請してから、およそ2か月後を目安に受け取ることができます。
申請する時期により受け取る時期が遅くなることがあるので注意が必要です。
3月は退職者が多い傾向にあり事務処理が混雑するため、退職金の受け取りが遅延する可能性があります。
公立保育園の場合
公立保育園の保育士は地方公務員であるため、「退職手当条例」により、退職した日からおよそ1か月以内に退職金を受け取ることができます。
条例による取り決めがあるため、私立保育園とは違い、受け取る時期は遅延しないといえるでしょう。
退職金があるか事前に確認しよう!
退職金はもらえたほうが嬉しいですよね。
しかし、就職を希望する保育園に退職金制度があるかどうか、事前に確認するにはどうしたらいいの?と疑問に思う方もいるでしょう。
ここでは、退職金制度の有無を事前に確認する方法について解説します。
求人票や保育園のホームページを確認する
保育士の求人票にはさまざまな募集条件が記載されています。
募集条件のなかの福利厚生欄をチェックしてみましょう。
退職金制度がある保育園であれば、一般的に福利厚生欄に記載されています。
ホームページで保育士の募集をしている保育園もあります。
そういった園であれば、保育園のホームページから確認することも可能です。
求人票と同様に、退職金制度を設けている場合、福利厚生欄に記載されています。
保育士に応募してもらうために、求人票やホームページで退職金制度について積極的に提示している場合もあるため、意識しながら見てみるといいかもしれませんね。
すでに就職している場合は保育園の就業規則を確認する
基本的に保育施設には就業規則が設けられています。
就業規則とは、労働時間や休日など、労働者の規則をまとめたものです。
就業規則のなかには、退職金に関する規定もあります。
そのためまずは勤とめる保育園の就業規則を確認してみましょう。
もし就業規則を確認できなれけば、就業規則を保管している事業所に閲覧の申請を行ってみてください。
まとめ
保育士として働く際に、退職金制度について確認しておくとよいでしょう。
さまざまな条件はあるものの、退職金制度を取り入れている保育園は多いようです。
辞めることを想定して就職活動をする方はいないため、意外と退職金の確認は後回しになりがちです。
しかし、さまざまな理由で辞めなければならないときがくるかもしれません。
退職金について正しく知ったうえで就職活動をすることは、将来への安心にもつながるでしょう。