保育士として働くにあたって、毎月いくら給料がもらえるのか、年収はどのくらになるかなど、収入面は気になりますよね。
求人票には月給や年収の総支給額である「額面」が記載されていますが、この「額面」から保険料や税金などが控除されるため、実際に受け取る「手取り」は額面どおりに受け取ることはできません。
では実際、毎月の給与からどのくらいの控除があり、具体的に保育士の「手取り」はどの程度になるのでしょうか。
ここでは、保育士の給与に関係する控除や手取りについて詳しく解説いたします。
保育士として就職を希望している方はぜひ参考にしてください。
保育士の平均月給
まずはじめに、実際に保育士として働いている方々の平均月給を見てみましょう。
〇私立保育園
常勤保育士1人あたり給与月額 301,823円(平均勤続年数:11.2年)
〇公立保育園
常勤保育士1人あたり給与月額 303,113円(平均勤続年数:11.0年)
※「常勤」とは、施設で定めた勤務時間(所定労働時間)のすべてを勤務する者を指します。
ただし、1日6時間以上月20日以上勤務している非常勤職員は「常勤」に含めて計上されています。
出典:令和元年度幼稚園・保育所・認定こども園等の 経営実態調査集計結果<速報値>
私立保育園、公立保育園の常勤保育士の平均月給は上記のようになっています。
上記の金額は、額面である総支給額の平均月給です。ここからさまざまなものが控除され、手取りとなります。
まずは控除の項目について解説いたします。
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毎月の給与から差し引かれる「控除」
正規雇用として働くにあたり、毎月の給与から「差し引かれる」控除はさまざまあります。
ここでは、各控除の内容と詳細について解説いたします。
健康保険料
毎月の給与から差し引かれる分として、まず最初に健康保険を思い浮かべる方もいるのではないでしょうか。
健康保険料は文字どおり、健康保険に加入するために支払う金額です。
健康保険に加入することによって健康保険証が発行され、医療費が原則3割負担になります。
また、高額な医療費がかかるときは軽減措置を受けられたり、けがや病気で働けなくなった場合に、手当金を受け取ることができます。
健康保険への加入は労働者の心身の健康のために必要不可欠なものといえるでしょう。
雇用保険料
雇用保険料は、雇用保険に加入するために支払う金額です。
一定期間雇用保険に加入していると、失業時に手当を受け取ることができます。
雇用保険制度は、
・労働者が失業した場合などに必要な給付を行う
・労働者の生活および雇用の安定を図るとともに再就職の援助を行う
などを目的とした制度です。
雇用保険は、労働者を雇用する事業の業種や規模などを問わず、すべて適用事業となり、雇用保険の適用を受けます。
年金保険料
年金保険料は、厚生年金に加入するために支払う金額です。
一定期間、保険料を納めることで65歳になったときに「老齢年金」を受け取ることができます。
老後の生活への貯蓄と考えるとイメージしやすいかもしれません。
年金保険は、会社ごとに加入する保険で、以下の場合は必ず加入することになっています。
・株式会社などの法人の事業所
・5人以上を雇っている個人の事業所
・従業員の半分以上は同意し、会社が申請した事業所
厚生年金保険に加入している人は、「国民年金保険(20歳から60歳のすべての人が必ず加入)」から、さらにプラスした保険料が毎月の給与から差し引かれます。
収めた保険料は、定年退職後の65歳から「老齢厚生年金」として受け取ることが可能です。
住民税
住民税は「1月1日時点」で住んでいる都道府県、市区町村に支払う税金のことです。
金額は年間の課税所得により決まります。
住民税は、地域の教育や福祉、防災など、さまざまな暮らしの充実、向上に役立てられるものです。
税金がどのように使われているのか、自治体の広報などで確認することができます。
所得税
所得税は、個人の所得に対してかかる税金です。
1年間で得た収入から、所得額に応じた税率に乗じて、税率ごとの控除額を差し引いて計算します。
毎月の給与から概算払いをしますが、年末調整や確定申告で払い過ぎた金額は還元されます。
所得税の計算は以下のとおりです。
所得税=課税所得金額×税率ー税率ごとの控除額
所得税は、所得が多いほど金額は高くなります。
給与の大事なポイント「手当」
控除として給与から差し引かれる金額があることが分かりましたが、「手当」としてプラスで支給される金額もあります。
手当があることで毎月の手取りも変わります。
ここでは、保育士が毎月の給与にプラスして支給される「手当」について解説いたします。
保育園から支給される手当
まずは保育園から支給される手当です。
ここでは主な3つの手当を紹介します。
役職手当
役職手当とは、「園長」「副園長」「主任」などの役職に就く保育士に対して支給される手当です。
また近年、国による保育士の処遇改善制度により、「副主任保育士」「専門リーダー」「職務分野別リーダー」という新たな役職が新設され、中堅以下の保育士でも役職手当の対象となるポジションを目指すことができるようになりました。
資格手当
資格手当とは、保育士資格を持つ保育士に対して、毎月の給与へ加算される手当のことです。
資格手当の有無や金額は保育園により異なります。資格手当を支給している保育園の場合、およそ毎月5千円~1万5千円の金額が手当として支給されることが多いようです。
ただし、資格手当はすでに基本給に含まれている場合もあるので注意が必要です。
特殊業務手当
特殊業務手当とは、園行事やイベントの際に支給される手当のことです。
運動会や発表会などのイベントシーズンは、準備で残業や持ち帰りの仕事が増え、保育業務の負担が増える傾向にあります。
大きな負担への対価として支払われるのが特殊業務手当です。
資格手当と同様に特殊業務手当の有無や金額も保育園によって異なります。
国から支給される手当
次に国から支給される手当についてです。
国により保育士のさまざまな処遇改善が行われています。
勤続年数や新設された役職に就くことで、手当を受け取ることができます。
ここでは処遇改善加算Ⅰと処遇改善加算Ⅱについて解説いたします。
処遇改善加算Ⅰ
処遇改善加算Ⅰは、保育施設に勤める保育士の平均継続年数により、給与のベースアップが期待できる制度です。
たとえば、
・平均勤続年数が5年以上6年未満の場合は、最大13%
・平均勤続年数が10年以上11年未満の場合は、最大18%
といったように、賃金に上乗せされます。
処遇改善手当は国から支給されますが、各保育園の判断によって各保育士に分配されます。
そのため、保育園によって差異があるようです。
出典:施設型給付費等に係る処遇改善等加算Ⅰ及び処遇改善等加算Ⅱについて/内閣府
処遇改善加算Ⅱ
処遇改善加算Ⅱは、若手保育士や中堅保育士へ手当を支給する制度です。
保育園では長い間、役職といえば「園長」「副園長」「主任」のみでした。
園長や主任保育士は園に1人のケースがほとんどなので、中堅保育士以下の保育士は役職に就くことができませんでした。
処遇改善加算Ⅱにより、「副主任保育士」「専門リーダー」「職務分野別リーダー」が新設され、中堅保育士以下の保育士でも役職を目指しやすくなりました。
上記3つの役職に就くためには、勤続年数の条件や、都道府県単位で実施される「キャリアアップ研修」の受講が必要となります。
副主任保育士、専門リーダー ⇒月額最大4万円 職務分野別リーダー ⇒月額5千円 |
役職に就くことで、上記のようなベースアップが見込めます。
毎月5千円の加算だけでも、年間6万円の給与アップと考えると、大きな金額ですね。
自治体から支給される手当
待機児童の問題解決に取り組んでいる自治体では、保育士の人材を確保するためにさまざまな制度があり、自治体から手当が支給されることがあります。
ここでは具体的に自治体から支給される手当について紹介します。
住宅支援制度
住宅支援制度とは、保育士人材の確保や定着を図るため、保育従事職員の宿舎を借り上げる支援事業のことです。
保育園が借り上げた物件に保育士が住むことで、家賃の全額または一部が補助されます。
市区町村によって補助額や自己負担額の内容は異なります。
家賃補助
保育士の家賃補助とは、住居にかかる費用の全額または一部を支援する制度です。
家賃補助は、事業者もしくは国や自治体が負担します。
家賃補助制度を利用する際は、保育園を運営する事業者を経由し支給を受けるため、個人での申請はできません。
住居費は生活費のなかでも大きな割合を占めるため、補助することで保育士の暮らしを支える目的があります。
保育士の手取りはどれくらい?
保育士の給与から差し引かれる控除や、加算される手当があることが分かりました。
では実際に、保育士が手取りとして受け取ることができる金額はどのくらいなのでしょうか。
ここでは、保育士の手取りについて、私立保育園、公立保育園に分けてお話しいたします。
私立保育園で働く保育士の手取り額
先述したとおり、私立保育園で働く常勤保育士の平均給与は301,823円です。
保育士の手取り額は、働いている保育園や住んでいる都道府県などで異なりますが、一般的に月収の7割~8割と言われています。
301,823円の8割で計算すると、241,458円が手取りとなります。
先述したとおり、住んでいる都道府県や最終学歴によって手取り額に差があり、「大都市圏」「大卒保育士」であると、手取り額が高い傾向にあるようです。
公立保育園で働く保育士の手取り額
先述したとおり、公立保育園で働く常勤保育士の平均給与は303,113円です。
給与の8割が手取りとして計算すると、242,490円となります。
公立保育園の場合も自治体によって給与が異なります。
また大卒と短大卒の保育士では、初任給で約2万円の差があるようです。
求人票には「額面」が記載されているので気をつけよう!
冒頭でもお伝えしたとおり、求人票に記載されている給与額は、「額面」と呼ばれています。
額面から税金や社会保険料などの控除が差し引かれたものが「手取り」となります。
一般的には額面から8割程度が手取りの目安といわれているので、求人票を確認する際はおよその手取り額を計算するといいでしょう。
また、収入は毎月の給与額だけでは測ることはできません。
賞与や各種手当なども含めた「年収」として考えることも大切です。
年収の額面から手取りを計算する方法があることをご存知でしょうか。
年収に0.75~0.85を掛けた額が年収の手取りといわれています。
例:求人票に年収400万円と記載されている場合
400万円×0.75~0.85=300万~340万円
この計算式を覚えておくことで、求人票からすぐに「手取り額」を計算することができるでしょう。
まとめ
保育士として働くにあたって、実際に受け取ることができる手取りは大変気になるところですよね。
控除として差し引かれる金額があること、手当として加算される金額があることを覚えておくとよいでしょう。
保育士は、処遇改善制度を利用して毎月の加算額を増やすことも可能です。
また、自治体によって給与のベースアップや補助金が異なります。
保育士の人材を必要としている大都市圏などでは、やはり手取り額が多い傾向にあります。
自分が住んでいる都道府県ではどのような手当があるのかなど、事前に確認しておくとよいですね。
自分の望む保育観と給与などの待遇を照らし合わせながら求人活動をすることがおすすめです。
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