保育士の資格を取得するための方法は、主に2つあります。1つは保育士養成施設を卒業することです。もう1つは国家試験である保育士試験に合格し、保育士の資格を得るという方法です。保育士試験は1次の筆記試験と2次の実技試験で構成されており、2つの試験に合格しなければ資格は取得できません。
この記事では主に保育士試験の中の筆記試験についてご紹介していきます。保育士資格を取得したいと考えている学生、社会人の皆さんはぜひ参考にしてみてください。
保育士資格とはどういうものか
保育士資格は保育士の仕事をするために必要な資格です。保育士資格は「児童福祉法」に基づいた名称独占の国家資格となっています。つまり保育士資格を持っていないものが保育士を名乗ることは法律で禁止されているのです。
保育士が活躍する職場
保育士の職場は、主に全国の児童福祉施設です。児童福祉施設の中には、保育所はもちろん、児童養護施設、乳児院、母子生活支援施設、障がい児施設も含まれます。なお保育所と幼稚園の役割を兼任している幼保連携型認定こども園という施設で働く場合は、基本的に保育士の資格に加え、幼稚園教諭の資格が必要となります。
※ただし経過措置として令和7年3月31日までは保育士、幼稚園教諭のどちらかの資格を持っていれば勤務が可能です。
保育士の仕事内容
保育士の仕事は、乳幼児の身の回りの世話から年中行事の開催、保護者への子育て支援まで多岐にわたります。日々の生活では子どもたちの年齢と発達に合わせた活動を計画し、心身の成長を促していきます。
活動を通して食事のマナーや歯磨き、手洗いなどの生活習慣を身に着けさせることも大事な仕事です。また、最近は保育士による発達障がいの早期発見、早期支援へのアドバイス、保育園における個別支援なども重視されています。
このように保育士は乳幼児に多方面からかかわるため、乳幼児に対する幅広い専門知識が必要とされる仕事です。保育士試験ではこの専門知識が備わっているかどうかを問われることになります。
保育士資格の国家試験内容
保育士試験は、筆記試験(1次試験)と実技試験(2次試験)で構成されています。両方に合格すると保育士資格を取得することができます。
筆記試験
保育士の筆記試験は9科目に分かれています。筆記試験で9科目すべてに合格しなければ実技試験には進めません。
試験形式は5択のマークシート方式です。試験時間は教育原理と社会的養護が30分、それ以外の7科目は60分になっています。なお、一度合格した筆記試験の科目は3年間(児童福祉施設での実務経験がある人は最大5年間)有効であるという制度があります。つまり5科目合格した場合、次の試験では残り4科目を受験すればよいことになります。
実技試験
実技試験では、以下の3分野から2分野を選んで受験します。
・「音楽に関する技術」(課題曲の弾き歌い)
・「造形に関する技術」(色鉛筆での絵画)
・「言語に関する技術」(絵本などを用いない素話)
実技試験についての詳細はこちらの記事をご参照ください。
筆記試験の解説
ここでは、筆記試験で問われる9つの内容について概要と過去問を紹介していきます。
● 保育原理
● 教育原理
● 社会的養護
● 子ども家庭福祉
● 社会福祉
● 保育の心理学
● 子どもの保健
● 子どもの食と栄養
● 保育実習理論
保育原理
海外及び日本における保育の歴史と思想、保育に関わる法令(児童福祉法や児童福祉施設設備運営基準等)の内容を問われる科目です。具体的にはルソーやモンテッソリーなど保育理論を生み出した歴史人物や、世界人権宣言、児童権利宣言などについて出題されます。
なお、法律は時々改正されるので、勉強の際には最新の法律情報に注意を払うようにしましょう。
またこの科目では保育所保育指針の内容も頻出です。
【平成31年前期過去問】
次のA~Dの条約や宣言を年代順に並べた場合の正しい組み合わせを一つ選びなさい。ただし、いずれも国際連盟または国際連合による総会での採択の年代順とする。
A 児童の権利に関するジュネーブ宣言
B 児童の権利に関する条約
C 児童権利宣言
D 世界人権宣言
(組み合わせ)
1 A→C→D→B
2 A→D→C→B
3 B→D→A→C
4 D→A→B→C
5 D→C→A→B
正解は『2』
教育原理
海外及び日本における教育の歴史と思想、教育に関わる法令(教育基本法等)について問われます。保育原理同様、最新の法改正情報には注意が必要です。
プロジェクト・メソッド(キルパトリック提唱)、問題解決学習(デューイ提唱者)など様々な教育方法と提唱者については確実に覚えておきましょう。
なお教育原理では、幼稚園教育要領の内容についても出題されます。
【平成31年前期過去問】
次の文は、「教育基本法」第9条の一部である。( A )・( B )に あてはまる語句の正しい組み合わせを一つ選びなさい。
法律に定める学校の教員は、自己の崇高な使命を深く自覚し、絶えず研究と( A )に励み、その( B )の遂行に努めなければならない。
前項の教員については、その使命と( B )の重要性にかんがみ、その身分は尊重され、待遇の適正が期せられるとともに、養成と研修の充実が図られなければならない。
(組み合わせ)
A B
1 研鑽 任務
2 研鑽 職責
3 修養 職責
4 修養 職務
5 修養 任務
正解は『3』
社会的養護
社会的養護とは、保護者がいない児童や保護者に問題がある児童を社会的に養護、支援することです。この科目では児童養護のための制度、社会的養護に関する調査や、里親制度について出題されます。
例えば乳児院、児童養護施設、児童自立支援施設、母子生活支援施設といった数々の児童福祉施設について、違いを問うような問題が出てきます。
【平成31年前期過去問】
次のうち、社会的養護における専門職名と専門職の配置が義務づけられている施設の組み合わせとして、正しいものを一つ選びなさい。
1 母子支援員 ―――― 児童養護施設および乳児院にのみ配置が義務づけられている。
2 心理療法担当職員 ― 児童心理治療施設にのみ配置が義務づけられている。
3 児童指導員 ―――― 児童自立支援施設にのみ配置が義務づけられている。
4 看護師 ―――――― 乳児院において配置が義務づけられている。
5 児童福祉司 ―――― 児童養護施設において配置が義務づけられている。
正解は『4』
子ども家庭福祉
子どもに関わる福祉制度について出題される科目です。里親制度や児童福祉施設、児童相談員などがキーワードとして挙げられます。少子化対策や児童虐待防止に関する問題も出題されます。社会的養護や社会福祉と出題範囲が似ている傾向があるため、並行学習すると効率よく学べます。
【平成31年前期過去問】
次のうち、子どもや子育て家庭への支援に関する国や地方公共団体が策定した計画及び大綱の呼称として、不適切なものを一つ選びなさい。
1 子ども・子育てビジョン
2 ゴールドプラン
3 子ども・子育て応援プラン
4 市町村子ども・子育て支援事業計画
5 ニッポン一億総活躍プラン
正解は『2』
社会福祉
乳幼児対象だけでなく、もっと広範囲の社会福祉について出題される科目です。例えば社会福祉の歴史について(日本国憲法の生存権から、イギリス社会保障制度の指針となったベヴァレッチ報告まで)、社会福祉の担い手(保育士から社会福祉士、介護福祉士等)の役割について問われます。生活保護制度やソーシャルワーカーについての問題もあります。
【平成31年前期過去問】
次のセンター名と支援の内容の組み合わせのうち、誤ったものを一つ選びなさい。
1 医療型児童発達支援センター ――― 医療的ケアが必要な子どもへの支援
2 地域包括支援センター ―――――― 介護等を要する高齢者への支援
3 地域活動支援センター ―――――― 障害者に対する社会参加等の支援
4 基幹相談支援センター ―――――― 生活困窮者に対する支援
5 配偶者暴力相談支援センター ――― 暴力被害女性に対する支援
正解は『4』
保育の心理学
先人が確立した様々な発達理論について、また乳児期から老年に至るまでの発達過程について問われます。例えば、社会的参照、心の理論、環境移行などの発達に関する用語が出題されます。保育所保育指針内の発達に関わる項目も出題対象です。
【平成31年前期過去問】
次の文は、言葉の発達に関する記述である。【Ⅰ群】の記述と、【Ⅱ群】の用語を結びつけた場合の正しい組み合わせを一つ選びなさい。
【Ⅰ群】
A 新生児は自然言語のどの音も知覚する感受性を備えている。
B 新生児は大人が話しかける言語の語、音節、音素の切れ目に同調してリズミカルに身体部位を動かす。
C 言葉が出現する以前からの大人との社会的相互作用が、言葉の獲得の重要な基礎となる。
D 大人が乳児に話しかける時、ゆっくり、はっきり、繰り返しする、などの特徴がある。
【Ⅱ群】
ア 言語発達の外在的要因
イ 言語発達の内在的要因
(組み合わせ)
A B C D
1 ア ア ア イ
2 ア ア イ ア
3 ア イ ア イ
4 イ ア イ ア
5 イ イ ア ア
正解は『5』
子どもの保健
科目名の通り、感染症や予防接種、アレルギー、精神疾患、発達障がいなど子どもの健康にかかわる知識が問われる科目です。パニック障害やうつ病など精神的な病気も出題対象です。
・下痢の時はどのような対処をするのが良いか
・アレルギーにはどんな種類のものがあるか
・インフルエンザに罹った時の登園の目安は?
など実践的な内容が出題されます。また「保育の心理学」同様に子どもの発達についての知識も問われます
【平成31年前期過去問】
次の文は、「発熱」に関する記述である。不適切な記述を一つ選びなさい。
1 発熱は、生体の防御反応として、免疫機構が病原体と戦っているサインである。
2 体温には日内変動がある。発熱時も朝方に上昇し、夕方から夜間に下がることが多い。
3 発熱が続くと、食欲が低下して水分も摂らなくなることがある。
4 不感蒸泄も盛んになって体の水分が奪われ、脱水に陥りやすくなる。
5 哺乳・食事の直後、泣いた後、体をよく動かした後などは、病気でない時でも熱が高めになることもある。
正解は『2』
子どもの食と栄養
乳幼児及び妊産婦の食事を中心に栄養学の基礎知識を問われます。特に「日本人の食事摂取基準」の内容は頻出です。例えば、乳児や妊婦のエネルギーの食事摂取基準量について等の問題が出題されます。
加えて乳幼児・学童にふさわしい食事量の目安、障がい児の食事における注意点などが出題範囲になります。
【平成31年前期過去問】
次の文は、「妊産婦のための食生活指針」(「健やか親子 21」推進検討会報告書)(平成 18 年:厚生労働省)の一部である。誤ったものを一つ選びなさい。
1 妊娠したら、健康なからだづくりを
2 お母さんと赤ちゃんの健やかな毎日は、からだと心にゆとりのある生活から生まれます
3 母乳育児も、バランスのよい食生活のなかで
4 たばことお酒の害から赤ちゃんを守りましょう
5 からだづくりの基礎となる「主菜」は適量を
正解は『1』
保育実習理論
ピアノの移調・コードネーム・曲名判定など音楽にかかわる問題、色の原理・絵の具や版画の種類・絵本の作者名などの造形や言葉にかかわる問題が出題されます。例えば、楽譜の一部が引用され、「この曲は?」と聞かれるような問題があります。
また保育所保育指針内の「保育のねらい及び内容」等が出題されます。
【平成31年前期過去問】
次の【事例】を読んで、【設問】に答えなさい。
【事例】
K保育所では、保育者向けの講習会を開催しました。講師の先生から、ある描画技法について以下のように説明がありました。
・ この技法では、まず様々な色のパスを使い、画用紙を塗り分けます。
・ ここでは大好きな色やあまり使わない色なども使い、自由に塗り分ける楽しさがあります。
・ その上から黒色のパスを全面に塗り重ねます。
・ 鮮やかな色を黒色で消してしまうことは、子どもにとって驚きでもあります。
・ さらにその上から竹ぐしや割り箸などを押し当てて描きます。
・ 下から鮮やかで様々な色の線が現れ、これもまた驚きです。
・ 鮮やかな色の線を使い自由に絵を描いたり、花火や昆虫などの表現に応用することもでき、幼児の造形活動でよく用いられています。
【設問】
この技法の呼び名として、正しいものを一つ選びなさい。
1 フロッタージュ
2 バチック
3 マーブリング
4 スクラッチ
5 デカルコマニー
正解は『4』
筆記試験の合格基準
筆記試験は全体の6割以上正解で合格となります。ただし、教育原理と社会的養護は2科目セットで扱われており、1科目のみ合格を認められることはありません。例えば教育原理が10割正解でも、社会的養護が3割しか正解していなかった場合、どちらの科目も不合格扱いされます。
筆記試験の勉強方法で気を付けるポイント
筆記試験の勉強をする際に気を付けたいポイントをご紹介します。
効率よく勉強できるように参考にしてみてください。
科目をまたいで効率の良い勉強をする
保育士筆記試験の受験科目は9科目と非常に多いです。効率の悪い勉強を続けると時間が足りなくなってしまうので注意が必要です。
そこでおすすめなのは、1つ1つの科目を勉強するのではなく類似分野をまとめて勉強することです。例えば「社会的養護」「子ども家庭福祉」「社会福祉」は出題範囲がかなり重複しているため、同時に勉強すると効率が良くなります。また保育所保育指針のような分野をまたぐ重要資料は教科にこだわらずに勉強しましょう。
単語帳や年表を活用する
よく登場する歴史人物については、出身国やキーワードを添えた単語帳を作ると覚えやすいです。歴史事項については年表を作ると知識が整理できます。
ポイントを絞った学習をする
保育士試験の範囲は膨大なので、できるだけ出題範囲を絞って学習することが大事です。教科書を読んで丸暗記をするよりも、1問1答集や過去問を使って何度も間違えながら知識を身に着けていくことがお勧めです。
保育に関する最新情報を得るようにする
保育士試験では最新の保育状況についても出題されます。保育と社会福祉関連のニュース、法改正情報収集も欠かさないようにしましょう。
保育士試験の筆記試験は効率のよい勉強で乗り越えよう!!
保育士試験では筆記試験と実技試験が実施され、筆記試験に合格しないと実技試験に進めません。筆記試験はマークシート形式ではあるものの、9教科に合格する必要があります。試験範囲は大変広いので、科目をまたいだ勉強や、よく出る部分を集中的に学習するなど効率の良い時間の使い方をしていくことが大事です。
保育士試験では、一度合格した科目は3年間有効になるという点も覚えておきましょう。この制度を利用すれば、3年をかけてじっくり試験に臨むことができます。保育士試験は1年に2度実施されるため、チャンスが多いことも特徴です。試験科目の数に尻込みせず、まずは1科目からでも勉強を始めてみてはどうでしょうか。
(引用元:「平成31年保育士筆記試験前期」https://www.hoyokyo.or.jp/files/19AP8-1.pdf)