社会の潮流を読み、新しいものを取り入れて変化する保育
ー「社会のなかで子どもを育てる」という変わらぬ本質を大切にしつつも、清香会では「保育を科学する」視点を持ち、保育を変化させてきたとうかがっています。具体的にどのように変化させてきたのでしょうか。
世の中はどんどん変わっていきますが、誰もが社会の中で生きていくということは100年後も変わらないことだと思います。そのために社会で育てることを大切に……。この本質は変わりません。
しかし、100年後の社会がどのようになっているかはわかりませんから、「今やっていること」に捉われて、ただ単にやり続けることに重きを置いていると大切な本質の部分を見失います。
社会の潮流を知り、時代を読む中で、子ども達が社会にでる20年後を想像し、子どもにとってどのような力を身につけることが大事なのか?今の保育のあり方でよいのか?など、常に疑問をもち検証することを大切にしています。
そのうえで、取り入れるべきものは取り入れ、変えてはいけないものは変えない。
そういう意味では既存のものに執着しないことが大事だと思っています。
ーそうして保育を前進させていったエピソードをぜひお聞きしたいです。
30年前、私は「一人ひとりを尊重した保育をやりましょう」と提案しました。
当時の園長は私の母。2024年現在も91歳で本園の園長を務めています。
当時はバブルの時期で、幼稚園の入園願書をもらうためには夜中から長蛇の列ができるのに、保育園には人が入らず、90人の定員が60人になっていました。保育の面では、一斉保育でみんなと同じことが同じようにできるのがいいこととされていた時代です。
私はそこに、違う価値観を持ち込んだことになります。
その時点で70年の歴史がありましたし、そこから学ぶことはたくさんあります。否定はしません。けれど、時代は変化しつつある、これからの時代には「一人ひとりを尊重した保育」が大事になるという確信が私にはありました。
異年齢保育やモンテッソーリの導入など、母はこれまで勝ち得てきたものへ執着することなく、私のやりたいようにやらせてくれました。
清香会の保育が大きく変わった転換点でもあると思います。
ー大きな変化への抵抗はありませんでしたか?
親子げんかはたくさんしました。けれど、母は「役割」の変化を感じたのでしょう。
保育のことはこれからはまかせたぞ、と最終的には決断のバトンを渡してくれました。
ほかにも職員や保護者からの抵抗もありました。
新しい保育についていけないと園をやめた保護者もいましたし、反感をもった職員もいました。また、小学校の先生からもそんな保育を受けた子ども達は困ると言われたこともありました。
それでも「必ずこういう時代がくる」という確信は揺るぎませんでした。
ーハレーションが起きるなかで信念を貫きとおしたのですね。それが今のように4世代が通う地域で愛される園になっていくまでどのように変化していったのでしょうか。
子どもが変わったんです。
先生たちは純粋に子どもたちのためにという思いで、プライドを持って仕事をしていますから、子どもによい変化が生まれれば、職員の感じ方は変わります。職員が変われば、保護者も変わる。保護者が変われば、地域が変わる。浸透するまでには時間はかかりましたが、少しずつ広がっていきました。
先生たちが一生懸命に取り組んでくれている保育のよさを地域の方に知っていただきたくて、私は青年会議所に入ったり、保健所で子育てお悩み相談を受けたり、市のイベントや町おこしに参加したりしました。その結果、地域の方にも興味をもっていただけるようになり、新しい園の開設や本園の拡張もできました。
ー「役割の移譲」と「時代を読む力」、そして「信念をもってつき進む強さ」が今の法人の広がりを支えていったのですね。

社会の変化を自分ごととして捉え、考えられる力を身につけてほしい
ー「新しい保育の創造」をし続けるには、現場の職員一人ひとりがさまざまな情報をキャッチアップする必要があります。そのために法人として、大江先生が取り組まれていることはありますか?
法人内の職員にしてもそうですし、外部で研修の講師をさせていただく際には、時代を読むこと、社会を知ることの大切さをお話ししています。今、社会でどんなことが起こっているのか、それが私たちの生活にどんな影響を及ぼすのか、どういう意味があるのか。そういったことを、ただ起きている現象として捉えるのではなく、自分のものとして、情報を取り入れたあとに考えてみる。
情報がなければ考えることもできないので、まずはいろんな情報を取り入れ、自分のなかに落とし込み、自分なりの答えをだしていくことは、自立した大人になるための訓練でもあると思います。
考える力はすぐに育まれるものではありませんし、伝えたからといってすぐに取り入れて習慣化できるものではありません。諦めずに何度も何度も、意識してそういう話をしていくしかないと思っています。
と同時に、実践に移すことも大事です。頭の中で考えるだけでは現状は変わりませんから。ただ失敗に対して寛容ではない世の中になっているので、現状維持、変わらないことを選択する人が増えているように思います。しかし、挑戦する、実践に移してみる。失敗は失敗ではなく、成長のチャンスだと捉えていく。そのようなものの考え方が大事です。そのことも口を酸っぱくして伝えています。そもそも失敗は諦めたときに失敗になるだけで、成功するまでやり続ければ失敗にはなりませんから。すべてポジティブに物事を考えることは大事ですよね。(笑)
ーここでも大江先生の粘り強さがうかがえますね(笑)。ホームページもとても美しくて、強いメッセージ性と信念を感じます。
諦めずに続けることで変化が生まれるということを経験してきましたから(笑)
メッセージはトップが伝えないといけないと思って、意識して伝えていますね。だけど、捉え方は人それぞれですし、だからこそそこからいろんな考えが生まれて、新たなものを生み出す気づきやヒントにもなると思っています。
しかし、歳を重ねていくと、多くの経験から自分なりの価値観や固定概念をもつようになり、決めつけや思い込みが激しくなってきます。そのため考えることをさせずに答えを出したり、相手を尊重せずに指示命令ばかりになりがちです。
それでは人は育たないので、私自身常に「おもしろがる」ことを意識しています。もちろん、深刻な問題が起こった時には真剣に考えていきますが、ここでいう「おもしろがる」とは、「~ねばならない」「~しなければならない」という頑なな考え方から、「そういうこともあるかも」「それはどういう意味があるのかな~?」と力を抜いて俯瞰的に物事をみてみるということです。そうすることで、見えなかったものが見えてくることも多々あり、起こっている出来事を肯定的に捉えることができるようになりました。
何事もそうですが、前向きに活き活きと人生を楽しそうにしている人には魅力を感じ、ついてきてくれると思うので、眉間にしわが入らないようなリーダーシップを取りたいと思っています。
