注目の園紹介

「つながる保育研修」から広がる、持続可能でインクルーシブな街の形

社会情勢や世の中の流れをキャッチアップして研修をプロデュース

青木美佳さん:保育安全部は全部で12名。和歌山本部に僕を含めて6名、あとは大阪、東京、奈良の各本部合わせて6名在籍しています。
管理栄養士、アートに特化した職員、大学院で保育の研究をしている職員、英語が堪能な職員、保育現場で管理職を経験している職員…と経歴はバラバラですが、それぞれが得意分野を持ち、それぞれの視点から新しい情報をキャッチアップして持ち寄ってきています。
それをまた、それぞれの観点から「どのようにしたら現場のみんなに届くか」を考えて研修やガイドラインを作っています。

青木さん:はい、ガイドラインの作成や浸透、研修を通じた「つながる保育」の普及、研修の企画から準備までをすべて担っています。研修の受講者募集やオンライン研修のオペレーションもやっていますし、「つながる保育研修」のSNSグループへの実践投稿に対してのコメントもしています。
研修の進度とクラスでの実践の進度がぴったり一致することはないので、そこで苦しむ受講者を励ましたり……ただ、ここは十分にできているとはいえないかもしれませんね。ブラッシュアップする余地はありそうです。

青木さん:「つながる保育」と同じような往還型研修でいえば、青木美佳さんが中心となり乳児クラス担任向けも実施しています。
そのほか管理職向けのマネジメント研修や保育研修では、時流に沿った新しい価値観や考え方を保育に取り入れています。
保育士資格には更新がないため一度取得したら、ずっとプロフェッショナルとして最前線の保育現場にいることになります。自分自身の持つ保育観や価値観を、社会の流れにあわせてアップデートするのは簡単なことではありませんから、檸檬会では法人として職員の学びをバックアップするために、すべての職員に学びの機会を作りたいと考えています。
最近では、幼児期の金融教育や性教育、ICTを活用した保育などをテーマにしていたり、現場での課題を受け、「日本語を母語としない親子が利用しやすい園づくり」プロジェクトを発足させてガイドライン作成も行いました。

青木美佳さん:社会情勢や世の中の流れを追いながら、この先どんな社会になるのかを予測して動いているところはありますね。国の動きはもちろん、今だけでなくこの先どう考えているかなど……。また、法人全体のアンテナも高いといえるかもしれません。アメーバのように法人全体がどんどん変化しています。保育安全部はそうした職員たちの流れを汲んでいます。保育安全部には、大学院に通っている職員もいますし、情報をキャッチアップできる人が揃っています。

青木さん:子どもも、職員も、私たちも、どういう教育を受けたら、もっと世の中のことを自分事化できる人になるのかを考えながら、日々情報と接しています。

青木さん:もちろん抵抗感があるという職員もいるでしょう。
ただ、たとえば保育におけるデジタルメディアの活用は、先進国の中ではもう標準になりつつあります。日本では、保育者が保育でデジタルメディアを使うことへの抵抗感もあり、なかなか進んでいない実態があると思います。しかし、今や家に帰ってデジタルメディアに一切ふれない生活をしている子どもはほとんどいないわけです。
だったら専門家である僕たちがちゃんとデジタルメディアとの向き合い方をしっかりと伝えた方がいいですよね。遊びの中で デジタルメディアを使うんじゃなくて、デジタルメディアで遊びがどう発展するかを重視して、まずはやってみる姿勢でいます。
なにごともトライ&エラーで少しずつ進めていこうという考えです。

つながる保育で、まちとつながる

青木さん:学童保育施設の子どもたちの「お米ってどうやって作るんだろう」という気づきからはじまったプロジェクトの例があります。じゃあお米を育ててみようと考えたのですが、子どもたちはどうやって育てたらいいのかわかりません。お米のこと、誰に聞いたらいいだろう?というところからはじまり、農協の方やお米屋さんに来てもらってお話を聞き、子どもたちが保育者や保護者以外の町の大人たちとつながりはじめたんです。
それにより「学童保育」という場所が、そこに通う子どものためだけの場所ではなく、地域のものになっていったんですね。突然訪問してくれる大人の人が増え、「こんなのできたけど、使ってみる?」って畑でとれたものなどを持ってきてくれたりね。詳しくは『SDGsと保育スタートBOOK ーつながる保育で実践する幼児期のESDー』(みらい)で紹介しているので、興味のある方はそちらをご覧いただきたいのですが、このプロジェクトを経て、僕たちも学童というのはこうして地域とつながれるんだと気づいたんです。

その事例からつながったのが、「夢のパンづくり」プロジェクトです。
子どもがデザインしたパンを地域のパン屋さんでつくってもらうプロジェクトだったのですが、そのなかに「ピンクのハートのパン」があったんです。ピンクにするにはいちごのチョコレートが必要だけど、そのパン屋さんではもともといちごのチョコレートは使っていない。このパンのためだけに仕入れると余ってしまう……。

青木さん:そう思いますよね。でも、それまでのつながりがあったことで、パン屋さんは「実現させる」方向で考えてくれました。ピンクのチョコレートを仕入れて、夢のパンをつくると同時に「いちごフェア」を始めたんです。
町全体で子どもの育ちを応援している、町全体で子育てをしているんだと感じました。
子どもたちもそういう空気を感じ取っているんじゃないかと思います。
新たに探究のまとを見つけたときに、「どうしたらできると思う?」「誰ならやり方を知っていると思う?」と問いかけると、子どもたちは「〇〇屋さんなら知ってる」「僕のお母さんが知ってるかも!」「私のお父さんが知っているかも」「前に来てくれた〇〇さんなら」と、自分たちの課題をまわりの大人と、地域とともに解決していく姿が見られます。
地域とのつながりが、子どもたちにとって自らの問いを解決するための行動につながっているんです。
もちろんそこには、保育者のかかわりが重要です。子どもたちの疑問を「質問」として言語化していく問いかけ、話し合いを重ね、ゲストとしてかかわっていただく町の方にも事前に情報を共有し、学びの場をプロデュースします。学びの環境構成ですね。

研修から街を変える保育安全部のメンバー、左から鈴木千夏さん、青木美佳さん、青木一永さん、鳥居咲希さん、栁岡 みのりさん

青木さん:なにかを教えてもらうのは「先生」だけじゃない、町にいる大勢の大人たちが「先生」になる。そして子どもたちが楽しく学び、僕たちにはない新しい発想で社会課題の解決へとつながる。
「つながる保育」が広く実践されることで、社会の課題が解決されていけば、多くのひとの生きづらさが軽減され、持続可能であたたかい社会が実現されていくのではないでしょうか。
こうした事例や取り組みは今後も発信していきますので、ぜひみなさんの園や地域、ご家庭でも取り入れてみてください!

(取材・文:山口美生、撮影:中薮晃、編集:ホイシル編集部)

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