法人内保育施設で生まれた変化のうねりを学童へ、世界へ……
ー2023年度の「つながる保育研修」全8回を終え、集大成として行なっている「実践発表会」をオンラインで一般公開されていました。法人内だけではなく、広く一般に、保護者も含めて公開した背景にはどのようなお考えがあったのでしょうか。
青木先生:実は、このつながる保育研修のテキストを『つながる保育スタートBOOK』(東洋館出版社,2022年刊)として出版したんです。この本では、つながる保育をどう進めるかという内容だけでなく、2021年度の研修受講者から生まれた実践事例を掲載しているんです。このように、研修受講者からたくさんの素敵な実践が生まれてきてたので、これを法人のなかだけで留めておくのはもったいないなと思い、書籍として世の中に発信するとともに、法人外の方々も参加できる実践発表会を行ったんです。
「つながる保育」で示しているような探究的な保育をやりたいけれどどうしたらいいのかわからないという保育者は、檸檬会以外にもたくさんいると思うんです。書籍もオンライン実践発表会も、そういった方々に届けたいという思いがあるんです。
そして、こうしたつながる保育を進めていくことで、何が生まれるかというと、僕はSDGsの実現だと思っています。
つながる保育では、子どもたちが自らの興味・関心から課題を見つけて探究し、発展させ、解決していきます。そのプロセスでは、友だちやさまざまな大人とかかわったり、協力しあうというパートナーシップを築きながら、身の回りの問題を自分ごととして解決してこうとうする経験を積んでいきます。これは、「自分は影響を与えられる存在なんだ」という、自己効力感を育んでいきます。
自己効力感があるからこそ、身の回りの問題に対して自分たちで解決できると信じて行動できる。そうなれば、SDGsはもっと進むはずです。
言うなれば「つながる保育」はESD(Education for Sustainable Development,SDGsを実現するための教育)*なんです。持続可能な社会の創り手を育む保育・教育の方法を、法人のなかに閉じることなく広く発信して実践者を増やしたいというのは、すべての人が自分らしく生きられる場づくりを目指している私たちにとっては自然なことでした。
ー学校教育においてはESDは学習指導要領でも示されていますが、保育にもESDの視点が求められているんですね。
青木さん:小学生になったらいきなり身のまわりのことを自分ごと化できる、なんてことはありません。保育が出発点です。
未就学の時点から、子どもはさまざまなことに興味・関心を抱きます。そこから探究が始まり、探究の過程で生まれた課題を解決していく……その経験というのは、まさにつながる保育で得られるものです。
この考えや取り組みがどんどん広まるといいなと思っています。
おかげさまで実践発表会に参加してくださった外部の保育者からもポジティブなご意見をたくさんいただきましたし、保護者からも保育者が専門性を高めていることに対しての喜びのお声をいただきました。
*ESD(Education for Sustainable Development)、「SDGsを実現するための教育」とは、世界中のあらゆる問題を自分ごととして主体的にとらえて、身近なところから問題の解決につながる変容を起こし、持続可能な社会を実現していくことを目指して行う教育活動のこと。文部科学省では「持続可能な社会の創り手を育む教育」と位置づけています。
ー広く一般に公開されている背景には、そうした思いがおありだったのですね。学童やインターナショナルスクールの先生が「つながる保育研修」に参加されているのも、保育からさらに広めていく取り組みの一環なのでしょうか。
青木さん:学童施設は、学びの価値を高められる可能性のある場所です。日中に学校で学んできたことを実社会、現実の世界に結びつけることもできる場になりうると考えています。
学童で「つながる保育」をすることで、国語や算数といった教科ごとの学びを全部ひっくるめて実践できます。
実際に学童施設での実践では、子どもたちから「やってみたい」「こうしたらできるかも」という声がたくさんあがり、学校で習ったことを取り入れることでより発展性が増すと感じています。大人でもびっくりするような発想が次々と出てくるんです。
自分の興味から探究を進めることは子どもたち自身が楽しいのはもちろん、指導員にとっても楽しいことです。
一般的に、学童保育の指導員には、教員や保育士の資格がなくても一定の研修を受けたらなれるため、十分な学びの機会が得られないことが多いという側面もあります。
しかし、こうした研修を提供することで「こうやって子どもの声を聞けばいいのか」「こういう環境をつくれば発展するんだ」とより保育を楽しめる知識を身につけられます。
さらに、こうした取り組みは保育から学童へという流れにとどまらず、海外へも広げていこうと挑戦中です。中国や東南アジアで日本の保育を展開し、グローバルに乳幼児期の育ちを支えていきたいと思っています。例えばフィリピンでも新しい園を作ることを目指しており、フィリピン人の保育者に檸檬会の園で働いてもらいながらつながる保育の実践方法を伝えています。国を問わず、一人ひとりに寄り添う丁寧な保育を実践することは意義のあることだと思います。
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