注目の園紹介

「つながる保育研修」から広がる、持続可能でインクルーシブな街の形

和歌山県紀の川市に本部を置き、全国で児童福祉事業と障がい者福祉事業を行う社会福祉法人檸檬会では、子ども主体の保育を進めるための「往還型の研修」を行い、それをオンラインで一般にも公開するという取り組みをしています。
法人内の学びを広く発信するにいたった背景や研修の内容、保育を中心とした街全体の変化、そして学びをプロデュースされている研修チーム(保育安全部)についてお話をうかがうなかで見えてきたのは、保育から広がる誰もが生きやすい持続可能な社会への展望でした。(2024年6月18日取材)

実践とレクチャーを半年にわたってくり返す往還型の「つながる保育研修」

「つながる保育」は、檸檬会の大事な保育の柱として、12年以上にわたって使われている言葉で、子ども一人ひとりの興味・関心が保育者の関わりにより広がり、深まっていく探究的な保育のことを意味しています。「なぜつながる保育が大切なのか」、「つながる保育とはどういうことなのか」をさまざまな場面で伝えてきたものの、現場で実践しきれていないという課題を感じていたといいます。

そこで、2021年からはじまったのが「つながる保育」を実践するにはどうしたらいいのかということへの丁寧なアプローチ、「つながる保育研修」です。

研修のねらいは「全国どこでも・どの園でも・なんだろうのその先へ(探究的な保育)を実現すること」。研修を通して、現場での実践にどのような変化があったのか、これからの展望について、「子ども発のつながる保育」の生みの親でもある檸檬会 副理事長の青木一永先生にうかがいました。

青木一永さん(以下、青木さん):「つながる保育研修」は毎年約8か月かけて行います。全8回で月1回、各回60分の研修を行い、最後に実践発表会があります。
毎月の研修には、それぞれ「つながる保育の意義」「サークルタイム」「オープンクエスチョンとは」「環境設定」などのテーマ設定があります。参加者は研修で学んだことを次の研修までの間に実践。さらに、次の研修で実践内容をシェアし、やってみて難しかったことや工夫などを持ち寄ることで、参加者同士の学び合いが生まれます。またロールプレイなども行い、学びをより実践的なものにします。

研修はオンラインとオンデマンド動画をうまく組み合わせながら進めますが、参加者には日本語を母語としないインターナショナルスクールの保育者もいるため、オンデマンド動画には英語で字幕も入れ、グループワークではバイリンガルの保育者が通訳をすることもあります。
ねらいとして掲げている「全国どこでも・どの園でも・なんだろうのその先への実現」はお題目ではなく、つながる保育に自信を持って実際に取り組める保育者を一人でも多く育成することを目指しています。

「つながる保育」の実践を世界に広げていきたい、語り口にも熱が入る

青木さん:おっしゃる通り、短い印象もあります。けれど、毎月行う研修の時間設定を長くしてしまうと、今度は参加者の負担感につながります。管理者がシフト調整をするのも難しい。60分というのは、半年以上にもわたる研修に続けて参加できるちょうどいい時間だと考えています。

また、この研修への参加が決まったら、まず参加者と各園の園長、主任で社内SNSのグループを作成します。
SNSグループは、「実践」の共有や相談を主な目的にしていますが、研修で話しきれなかったこともこのSNSで共有できます。

青木さん:参加者(受講者)が「つながる保育」を実践するにあたり、バックアップをする存在として園長、主任の理解が必要だからです。保育環境を整えるためには、どうしてもお金がかかることもありますからね。
また、自園からの参加者がどういうことをしているのか、また他の園でどのような動きがあるのかを知ることで、受講者が実践していることはもちろん、他園が行う環境整備を自園に活かすこともできます。

青木さん:檸檬会の各園から1名ずつ参加するので、毎年50名弱になります。21年からの3年間で約120~130名が研修を受けたことになります。
今年度(24年)も行われるので、24年度末には170~180名の職員がこの「つながる保育研修」の修了生となります。

青木さん:本当はもっとたくさん参加できればいいのかもしれませんが、各園のシフトを踏まえると、現実的に対応できる枠組みにする必要があります。一方で、一気にではなく、その受講者が徐々に増えていくということで、大きなうねり、影響を生むということも期待しています。
つながる保育というのは、「子ども主体の保育」といえるかもしれませんが、そのためには保育者の主体性も大切になります。まさに最近よく耳にする「共主体の保育」です。各園から参加した1人の保育者が主体的に日常の保育で実践していく様は、間違いなく周りの保育者に影響を与えていきます。そして、主体的な保育者がじわじわと増えていく。そういった様子を意図しています。
今年で4年目。毎年自園に1名増えるにつれ熱量は増していて、実際に、現場での実践を通して変化のうねりが生まれていることを実感しています。

レイモンドこども園のあちこちにある「出会いの窓」も新しいつながりが生まれる場所

<次のページ:保育者の手応えから「うねり」が生まれる>

タイトルとURLをコピーしました