注目の園紹介

自分で考えて行動できる子を育む「先生たちの主体性」が生まれたわけ

~「公開保育」からはじまった、ちゃいれっく入船保育園の1年の変化~

ちゃいれっく入船保育園は株式会社プロケアが運営する保育施設です。
23年度に市からの依頼で「公開保育」をしたところ、園全体に大きな変化が生まれ、保護者からも喜ばれているそうです。
そこで、ちゃいれっく入船保育園の市川園長に1年間の歩みと変化、そしてさらにそれをグループ園に広げていくための取り組みについて株式会社プロケア エリアマネージャーの下牧さん、人材育成を担当されている早津さんにお聞きしました。(2024年2月某日取材)

  • ちゃいれっく入船保育園 市川園長(写真中央)
  • 株式会社プロケア 下牧さま(写真右)
  • 株式会社プロケア 早津さま(写真左)

<もくじ>

・「今の子どもたち」に合うように保育も行事も変えていく
「子ども起点」で変わっていく行事や保護者の捉え方
ちゃいれっくの全園に変化を起こせるグループ園ならではの取り組み

「今の子どもたち」に合うように保育も行事も変えていく

ちゃいれっく保育園では、「リズム遊び」「読み聞かせ」「食育」の3つの活動を大切にしています。
3・4・5歳児が「リズム遊び」をしている様子を見せていただいたところ、30名ほどの子どもたちがピアノの音にあわせて順番にさまざまな動きをしていました。体を動かしている子どもたちはもちろん、順番待ちをしている子どもたちも手をたたいたり声をあげたりしながら積極的に参加し、楽しんでいる様子がうかがえました。

市川園長の「今日はお客さんが来てますよ、見てほしいのはある?」の声かけに、「ブリッジ!」「糸まき!」と次々と手があがります。

このリズム遊びは、すべて通すと1時間半から2時間ほどにもなり、季節や子どもたちの成長、その日の体調を見ながら先生が抜粋したり、この日のように子どもたちのリクエストを聞きながら、毎日のように実施されています。

市川園長:同じ動きをすることで一人ひとりの体の成長、心の変化もわかります。積極的に参加していた子も、心の成長に伴い、今はやりたくないという気持ちが芽生えることもあります。参加したくないときは無理に参加しなくてもいいんです。
子どもの主体性が大切ですから、「この間はできたのにどうして?」とは言いません。そのときの気持ちを大切にします。
活動を見ているなかで「この動きならやってもいいかも」「昨日はイヤだったけど今日はやりたい」と思ったらいつでも参加でき、また新しい「できた」が積み重ねられる。
年長さんだけが取り組む少し難しい動きもあり、異年齢で活動することで、「はやくあれに挑戦したい」という意欲の芽生えにもつながっています。

市川園長:きっかけは先生たちの声です。先生たちが「こういうことがしたい」と言ってくれたことに対して、私は「いいよ」と背中を押しただけです。思えば、ほかのことでもそうですね。次から次へと飛び出す先生たちの発案に、「いいよ、やってみよう」と言っていたら、いろんなことが変わっていきました。

市川園長:直近で変わったところでいうと玄関の絵本コーナーの向きでしょうか。このコーナーを変えるのは、実はこの1年で3回目なんです。絵本コーナーにいる子どもたちを見て、本棚が向き合っていて、もう少しゆったり見られるようにしたほうがよさそう…と今の形になりました。「少し前に変えたばかりだけど、こう変えたい」と先生が提案してくれました。それに対して、私は「もちろんいいよ。棚が倒れないように安全だけは確保してね」と言うだけ。新しく高額なものが必要なときはちょっと待ってもらうこともありますけどね(笑)

玄関から入ってすぐにある絵本コーナー。どの形も「これが最良」ではなく、そのときの子どもたちに合わせて変えていくことが大切だという

早津さん:千葉県市川市が主体となって実施している公開保育を、ちゃいれっく入船保育園で引き受けていただいたことです。
「公開保育」というのは、日常の保育の様子、保育実践を広く地域の他園の保育者に向けてお見せする主に公立園が実施している取り組みです。保育の質向上に寄与するものとして実施されています。

現場の先生方にとっては大変かもしれないけれど、外部の先生の目が入ったり、アドバイスをいただけたりするのはいい機会になるのではと考え、市川園長にご相談しました。

市川園長:「公開保育」って公立園がやるものという思い込みがあったので、正直なところ、自分たちの園にほかの先生方がたくさんいらして評価をされるということへの抵抗がありました。だけどお話を聞いていたら「ちょっとやってみるのもいいかも」と思えてきて……。

早津さん:市川園長はそう感じてくださるって思ってました!(笑)

市川園長を信じていたと語る早津さん

市川園長:職員みんなで保育や行事に対して活発に意見交換するきっかけになるし、私自身も先生たちを知ることになるだろうし、そこに期待が生まれました。準備の過程では意見のぶつかり合いもあり大変だったのですが、外部の先生から共感やお褒めの言葉、たくさんの感想をいただいて、自分たちがやってきたことに対して私も含め、先生たちみんなに自信が生まれたんです。

早津さん:みなさんのモチベーションがもうぐっと上がりましたね。

下牧さん:それが声かけ、発想、子どもを見るまなざし、行動すべてにあふれ出てくるようになりました。
お忙しいなかで先生たちには、チームで仕事をするにあたってうまくいかないもどかしさや意志疎通がうまくいかないなどの壁があったと思うんです。公開保育を通じて、ひとつ壁を乗り越えてチームとしての力が強まり、先生たちがより一層イキイキと保育をされるようになり、それが園全体が輝いていくことにつながったように感じています。

市川園長:これまでもずっと先生たちは「子ども主体の保育ってどうしたらいいんだろう」と考えてくれていました。ただ、主体性という抽象的な言葉を保育のなかで具体的にしていくなかで、これまで学んできた1歳児さんはこう、2歳児さんはこう…という過去の経験や知識をベースにしていたところがありました。日々の保育や行事に関しても大枠は前年通りでいいかなと、大きくは変えてこなかったんですが、公開保育を経験して、先生たちから「やっぱりこうしてみたい」「ああしてみたい」と意見が多くなったんです。

市川園長:そうです。3歳児くらいになると子どもたちも個性が強く出るようになりますよね。クラスのみんなで公園に行くとき、どうしても行きたくない子がいた場合に、「じゃあこっちのクラスで一緒に制作する?」とか「こっちでブロックもできるよ」と迎え入れてあげられる、子どものそのときの気持ちをクラスの垣根を越えて大切にするにはどうしたら……というところから「異年齢交流をやりたい」につながりました。単純に違う年齢の子どもたちがリズム遊びという同じ活動をするのではなく、子どもの主体性を大切にするためにはどうしたらいいか…と考えた結果です。リズム遊びという枠のなかで一緒にやるだけじゃなくて、「いつでもほかのクラスに行ける」状況をつくることで、子どもの気持ちにも寄りそえますし、先生も気持ちにゆとりができます。

先生たちの変化を語り笑顔がこぼれる市川園長

市川園長:こういう風に先生たちから意見があがってくるようになったのは、準備段階での対話の効果かもしれません。最初は意見をあまり言えなかった先生も、「モヤモヤしてることがあるなら言っちゃいなよ」という先生の声に背中をおされて発言したら、その意見を「いいね」と受け止めてもらえて、「言ってよかった」につながって……その過程で先生たちの主体性が芽生えたように感じました。

市川園長:行事も「いまの子どもたちにとっては、これとこれは別でやったほういいんじゃないか」「子どもたちがその時間を楽しめるように変えていきましょう」って声があがり、それに対して他の先生方も「それがいいと思う」「だったら3歳児以上はこういう形式にしてみたらもっといいかも」と意見が出る。私が「いいよ、いいよ」と言っている間に、どんどん反映されて変わっていきました。

<次のページ:「子ども起点」で変わっていく行事や保護者の捉え方>

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