注目の園紹介

真に壁のないインクルーシブ保育施設を目指して

東京都初・児童発達支援センターと認可保育園の完全併設施設
「子ども発達支援センターつむぎ 東大和×東大和どろんこ保育園」特別内覧会レポート

2024年4月1日、東京都初となる児童発達支援センターと認可保育園の完全併設施設「子ども発達支援センターつむぎ 東大和×東大和どろんこ保育園」が開園します。

所在地である東大和市は、子ども・子育て支援の推進を令和6年度の第一の重要施策としており、子育て環境の充実、保護者の多様な保育ニーズに対応するため、本施設が開設されました。開園に先立ち、特別内覧会にて園の様子を見せていただきました。(2024年3月15日取材)

自由に行き来できる広い園庭で、自然に生きる力を育む

玄関口から奥へ進むと、まず目に入るのが広い園庭です。
教室の外廊下(縁側)からすぐに出られるようになっており、子どもたちは自由にこの園庭と教室を行き来して遊ぶことができるそうです。

ちょうど内覧の日には、大きなトラックいっぱいの土が運び込まれ、「築山」が築かれていく様子を見ることができました。トラックの荷台から流れ落ちた土を、油圧ショベルカーがおし固めていきます。
遊具はほとんど配置せず、木登りができる木やこの築山をつかって子どもたちは自由な発想で遊びをふくらませます。

2階テラスからの園庭の眺め。左手の小屋にはニワトリとヤギがこれからやってくる

園庭と外廊下の境目には手洗い用の水道、足を流すためのシャワーが複数個所設置されています。外を裸足で走りまわったあとは、まっくろな手足を洗い流して室内で遊ぶ。
子どもたちの「今、これをしたい」がいつでも思いっきりできる環境です。

水道と並びで置いてあるドラム缶は、どろ遊びを推奨しているどろんこ会グループならではのサステナブルな装置。雨水が集まる仕組みになっており、子どもたちのどろ遊び用のお水として使われます。

手洗い用の水道とは別に用意された「どろ遊び専用水道」
外廊下は子どもたち自身で雑巾がけをする

壁が1枚もない2~5歳児が過ごす保育室

園庭から玄関に入ると、右手に職員室、左手に給食室、その奥に保育室が広がっています。
東大和どろんこ保育園は80名定員の保育園です(1歳から5歳までそれぞれ16名ずつ)。そのうちの2歳から5歳までの64名と、発達支援センターつむぎ 東大和に通う30名が主に過ごすのが1階の保育室。

広々した空間を仕切る壁は1枚もありません。

うんてい、跳び箱、マットが設置された体を思い切り動かせる場所を中心に、左右にさまざまなおもちゃで遊べる場所、おままごとで遊べる場所と空間は分けられているものの、壁がないので、どこでどんなやりとりが繰り広げられているのかがよく見えます。

先生たちにとっては子どもの様子を見守りやすく、子どもたちにとっては「あれやりたい」と興味が広がりやすい環境です。

両施設の統括施設長 宮澤叙栄先生

子どもたちは年齢や障がいの有無で部屋を分けられることなく、このひとつの部屋でともに生活をします。
手をつないで一緒に遊ばなくても、通りすがりに目が合い、横を通るときにふれあいが生まれ、みんなが「そこにいる」ことを感じられるインクルーシブな環境です。

壁一面の荷物置きも両施設の利用者分この部屋に
昔遊びは地域の人との異世代交流にもつながる

職員1人1台のスマホで子どもの移動を即座に連絡、自由と安全を両立する

2階は1歳児の部屋、絵本の部屋(一時保育室)、発達支援センターの部屋が並びます。
絵本の部屋から続くのは2階の大きなテラス。
夏にはここに大きなプールを出す予定だということです。

自然の光のなかで思い思いのスタイルで絵本の世界に浸れる空間

絵本の部屋には畳風のマットが敷かれており、座位の体勢を保つのが難しい子も横になって絵本を読んだり、また読んでもらったりできます。
絵本を読むスペースも「みんなで1冊の本を読めるテーブル」や「壁に向かって本に集中する場所」と、子どもがそのときの気分で選べます。

1階の広い保育室と2階のこれらの部屋の行き来は自由で、子どもたちは先生に許可を求めずに移動できます。
移動が自由となると気になるのは安全面。
先生たちは1人1台支給されているスマホで「今、○○ちゃんと○○ちゃんが2階に向かいました」「○○ちゃんと○○ちゃんこちらに来ました」と互いに連絡をとりあい確認し、子どもたちの居場所を把握しています。
子どもたちが移動しているその瞬間にもし地震がきても、安全に避難できるように、毎月違うパターンを想定した避難訓練を実施しているといいます。

保育園主任の長澤先生。「いつ災害が起きても安全に避難できるよう訓練しています」

移動は遊びの時間だけでなく、食事の時間も自由。
通常は1階の縁側で給食をとることになっている2~5歳児も「上で1歳児さんと食べたいな」と思えば、自分の食事のトレイを持って2階にあがり、一緒に食事をすることができます。

2~5歳児の給食はバイキング形式で、子どもがそのとき食べたいものを自分で選ぶシステム。食べる場所も、食べるものも自分で選べるのがどろんこスタイルです。

障がいのある方が社会に出られるように 長く支援できる仕組みづくりを

完全併設でインクルーシブな環境が整えられてはいるものの、「一人で過ごしたい」場合に利用できる個別支援の部屋もあり、「この子にとって今いちばんいい」状態を選べるようになっています。

「なにもかも一緒にするのがいい」のではなく、友だちと一緒に過ごしたいときには分け隔てなくともにいられ、一人になりたいときには一人になれる施設です。

どろんこ会 運営部部長の辻内さん(左)と発達支援センターつむぎ 東大和施設長の中村先生(右)

どろんこ会グループは、2022年より障害者総合支援法に基づく就労継続支援B型の事業も行っています。
どろんこ会グループ運営部部長の辻内さん曰く、「発達支援センターで子どもたちの支援をしながら、その子たちの未来を支援するために、障がいのある方が社会に出ていけることを目標に取り組んでいる」そうです。

発達支援センターにお子さんを通わせている保護者にとっては、子どもが小さいころにそうした「先行きを見通せるきっかけ」が身近にあることは心強いものとなるでしょう。

併設の子育て支援室「つむぎカフェ / ちきんえっぐ」
外から見える場所にありはじめての方も入りやすい雰囲気

専門家の目線から見た「東大和どろんこ保育園×子ども発達支援センターつむぎ 東大和」

「学童と保育」「保育と発達支援センター」など保育における複合施設の研究をされている東京未来大学 こども心理学部 通信教育課程 特任教授であり、2級建築士の資格をお持ちの三國隆子先生にコメントをお寄せいただきました。

 保育の中で職員が一人一台のスマホで連絡を取り合い、子どもの安全を確保することで、園児は園内の好きなところに行って過ごすことができる。
 このような保育は、先生たちにとっては大変な取り組みだろうと思います。その一方で、園で関わる大人みんなが自分のことを知っていてくれることは、子どもにとって「自分が受け入れられている」と思える大きな安心感につながるだろうと感じました。「物理的に」壁がない、ということが「心理的に」も壁がないことにつながる保育の形だと思いました。
 「物理的に」壁がない空間には様々な工夫がなされていました。家具の配置によってコーナーができ、子どもは居心地のいい場所を見つけて過ごせると感じました。家具の高さの視点でみると、例えば2階トイレ前では、オムツ替えコーナーを囲む家具の高さが園児のプライバシーを守りつつも、保育士が屈んだ姿勢でも保育室全体を見渡せる高さになっていました。子どもと関わる保育士の働きやすさと安全性も考えられていると感じました。
 また、子どもが自分の居場所を確保できたとしても、大きな部屋でたくさんの人が過ごす賑やかな空間は、音に敏感な子どもにとっては疲れてしまう場面もあると思います。そのために、「動」の空間とは別に「静」の空間も2階に設けられていて、さらに個別に関わる小さな部屋もありました。様々な子どもの思いを想定して空間が作られていると感じました。とはいえ、きっとこの空間で子どもたちが生活を始めたら、大人の予想とはまた違う使い方が生まれるのだろうな、と子どもたちの生き生きとした目の輝きが浮かんできました。
 最後に、私自身、幼児期から児童期へのつながりをテーマに研究しているため、その視点から1つとても気になる場所がありました。それは、2階の廊下突き当たりにある、隣の小学校体育館の中が見下ろせる大きな窓です。園児がこの窓から小学校への憧れをもって小学生を見つめ、また園児が小学生になった日に、保育園のあの窓を体育館側から見上げて懐かしく自分の成長を思う日がくるのかもしれません。1つの窓から子どもたちの成長のドラマが見えました。

三國隆子先生の研究に関する記事「学童×保育園 併設施設の可能性を探る」前編 / 後編

■編集後記
実際に施設を拝見したことで、子どもたちを遮っている物理的な壁を取り払うことは、心の壁を生み出さないことにつながるのだということを感じました。幼いころに障害のある子もない子も「同じようにいつもそばにいる」状況で過ごすことで、子どもたちはインクルーシブを当たり前のものとして捉えられるようになることでしょう。東京都初となる完全併設の取り組みがよい連鎖を生み、今後さらに広がっていくことを願っています。

(取材・文:山口美生、編集:ホイシル編集部)

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