保育実習では、最終日に近づくと「責任実習・全日実習」と呼ばれる、実習生が実際に子どもの前に立ち、1日活動を行う実習日が設けられています。
責任実習や全日実習をよりよい経験の場にするためにも、保育実習中に経験しておきたいのが『部分実習・部分保育(以下、部分実習)』です。
部分実習は、朝の会や帰りの会、主活動や絵本の読み聞かせなど、1日の保育の中のある1部分だけを実習するものです。
今回は部分実習を行うときのポイントや、指導案の書き方についてもご紹介したいと思います。
部分実習や責任実習で書く指導案とは
保育における指導案とは、保育所や幼稚園などの教育目標をより具体的に示した、保育・教育の計画のことです。保育士はこどもの年齢や興味・関心、人間関係など、一人ひとりの発達や状況に合わせて指導案を立てていきます。
指導案にはねらいや目標が記載されており、そのねらいに沿って遊びや活動の内容が構成されていきます。また、その保育活動での子どもに対する保育士の配慮や環境構成、行動、声かけなどが記載されています。
保育士はこの指導案に沿って保育を展開し、子どもの成長を援助します。
指導案の種類
保育園で働いている保育士は、日々指導案を作成し保育を行っております。
指導案の種類は、大きく分けて【長期指導計画】と【短期指導計画】の2つがあります。
この2つの指導案は厚生労働省が定める保育所保育指針を基に作成されています。
長期指導計画
保育士が主に作成する長期指導計画は、さらに2種類にわけられます。
1つ目に、1年間の保育計画を立てる『年間指導計画』
2つ目に、その年間指導計画をより具体化し月単位で保育計画を立てる『月案』
【年間指導計画】
4月~翌年3月までの1年間における、保育園生活や保育活動の見通しを立てることを目的としています。年間指導計画では、子どもの成長を促す保育ができるように1年間の流れを意識しながら作成します。
【月案】
年間指導計画をより具体化するために、月単位で保育園生活や保育活動の見通しを立てることを目的としています。前月末の子どもの様子や発達段階、季節などを踏まえながら、子ども一人ひとりの発達に合った保育士の援助について具体的に記載します。
短期指導計画
保育士が主に作成する短期指導計画には2種類あります。
1つ目に、月案をより具体化し週単位で保育計画を立てる『週案』
2つ目に、その週案をより具体化し1日単位で保育計画を立てる『日案』
【週案】
月案のねらいを達成するために、週単位でどのような活動に取り組むか見通しを立てることを目的としています。計画を立てるにあたり、前週の子どもの姿や興味・関心を踏まえて作成していきます。また、天気予報から天候や気温などを考慮し、活動内容を考えて作成します。
【日案】
週案で計画した内容を時系列で活動の準備や流れ、保育士の配慮など記載していきます。
複数人でクラス担任をしている場合は、保育士の動きやどの担当などか記載していることが多いです。また、保育をスムーズに行えるように、どのように活動を展開するのか、1日の子どものタイムスケジュールを見通して細かく立てています。
保育実習で作成する指導案はこの『日案』が大半です。
部分実習とは?
部分実習は、保育園の1日のなかで、朝の会や帰りの会、主活動といった一部分だけを、実習生が子どもたちの前に立って保育士として活動を行う実習のことです。
絵本の読み聞かせや導入の仕方などを学ぶことができるので、実際に現場に出たときにも役立つ経験になります。
また、責任実習の練習にもなるので、保育実習期間中に部分実習を複数回行うことができれば、より安心して責任実習に臨むことができます。
部分実習をお願いする方法
責任実習はできるだけ実施してもらえるよう学校から保育園に案内していますが、部分実習は指定しない学校も多いようです。
そのため、実習生が自分から「やりたい」と申し出ない限り、行う機会がないという場合もあります。部分実習を行わず、いきなり責任実習をお願いされる可能性もあるので、保育実習のなかで積極的に保育園の園長先生や実習担当の保育士に相談してみましょう。
部分実習をお願いする場合は、ある程度やりたいことや、読み聞かせをしたい絵本などを決めておくとスムーズに実習日程が決まりやすいです。
できればオリエンテーションの段階で、保育実習期間の予定などを確認しておけるとよいですね。
【部分実習をお願いする文例】
「はらぺこあおむしの絵本を2歳児クラスで読みたいのですが、お時間を作っていただくことはできますか?」
「朝の会の部分実習をさせていただきたいのですが、3歳児のクラスで行うことはできますか?」
「手遊びを子どもの前で行いたいのですが、子どもに人気の手遊びはありますか?」
「帰りの会でピアノを弾かせていただけないでしょうか。」
というように、「なにを」「どこで」「いつ」やりたいのかを明確にしてから、部分実習を相談すると、保育士も一度で実習生のやりたいことを理解できるので話がスムーズにすすむはずです。
また、部分実習では自分が苦手とする分野に積極的に取り組むことをおすすめします。たとえばピアノや、子どもたちの前で手遊びをするなど、苦手なことを経験しておけば責任実習でも役立ち、保育士としても大きく成長できるはずです。
部分実習の指導案を書くときのポイント
部分実習は1日の保育のほんの1部分とはいえ、丁寧に指導案を書くことが大切です。
日々の日誌もあり、ただでさえ忙しい保育実習期間で大変かもしれませんが、自分の糧になるものですので、丁寧な書き方をこころがけましょう。
部分実習の指導案の見本と、書き方のポイントをあわせてご紹介したいと思います。
保育内容(活動)
活動をなににするかは、部分実習の1番重要な部分です。
たとえば、「ももたろう」などの長い物語絵本を0歳児クラスで読んでも、子どもたちは飽きてしまいますよね。
活動の内容は、年齢や子どもの様子、興味関心に合わせて決めます。やりたいことがあるのであれば、「○○をやりたいのですが、何歳クラスで行うのがよいでしょうか?」と担当の保育士に助言を求めるとよいでしょう。
活動の中身については、最初は自分が話す言葉も「 」を使った書き方をしておくと、シュミレーションしやすいのでおすすめです。
ねらい
活動のねらいはとても大切です。同じ絵本を読むという活動でも「静かな雰囲気のなかで物語の世界を楽しむ」というねらいと「一緒に参加し、絵本を楽しむ」というねらいでは、読み聞かせる絵本の種類も声かけのしかたも変わってきます。
この活動で、子どもたちにどんなことを体験、経験してほしいのかを考え、ねらいをたてていきましょう。
最初は難しいと感じるかもしれませんが、子どもたちと実際にかかわるなかで、ねらいが自然と見えてくることもあります。
環境構成
活動をすすめるうえで、環境構成は重要な項目です。
絵本を読むという活動1つとっても、
- ・子どもが床に座って、保育士が椅子に座って読む
- ・子どもも保育士も床に座って読む
- ・子どもは椅子に座り、保育士は立って読む
- ・子どもは好きなところに自由に座る など
これ以外にもたくさんの環境設定があげられます。
乳児クラスであれば、まだ集中できず立ち歩いてしまう可能性もあるので、子どもを壁沿いや床に描かれた線やマークのうえに誘導し、保育士は椅子に座って読むという場合もあります。しかし乳児クラスの子どもはまだ背が低いため、保育士が床に座って読んでも、後ろの子までしっかり目が届くので必ずしも椅子が必要ということはありません。
一方、幼児クラスは保育士の近くに自由に座るという設定でも子どもが自主的に保育士の周りに座ることができます。ですが、保育士も床に座って読むと、後ろに座った子は絵本が見えづらくなるため、保育士は椅子に座る、立って読むといった配慮が必要です。
このように同じ活動でも、年齢や教室の配置によって環境設定は異なります。
保育実習中、担任の保育士がどのように環境設定を行っているかチェックしてみるといいでしょう。
また、環境設定によって子どもがどのような行動や反応をするのかという部分にも注目しておきましょう。
導入
導入とは、活動を行う前に子どもたちに興味関心をもってもらうための働きかけのことを指します。
絵本を読むまえに手遊びを行うことが多いですが、これは手遊びを行うことで「子どもたちが注目しやすくなる」「子どもたちが静かに絵本を聴く姿勢をつくる」といった導入の意味合いを持っているといえます。
たとえば、「粘土でぶどうを作る」という製作をする場合、「本物のぶどうを見せる」「ぶどうがでてくる絵本を読む」といった導入をすれば、子どもが「ぶどうってこんな形をしているんだ!」と理解を深めることができます。
活動をすすめるうえで導入はとても大切なので、どうすればスムーズに活動に入ることができるか、1つの活動に対して数種類の導入を考えてみるとよいでしょう。
もちろん指導案には導入から記載しておきます。
また、部分実習で導入をしっかりと取り入れ、子どもたちの反応を見たり保育士からのアドバイスを受けたりしておくことで、責任実習にも役立ちます。
部分実習の指導案を書く前に確認しておきたいポイント
部分実習の指導案を書くうえで、現場の保育士がどのようなことに注意を払って保育をすすめているのか知っておく必要があります。保育実習のなかで保育士どのような配慮や援助をしているか見えてくると、指導案を書く際に参考になります。
保育士が普段気にかけていることや、注意しているポイントを紹介しますので、部分実習の指導案を作成する際の参考にしてみてくださいね。
【朝の会】の部分実習
朝の会は園によって流れが決まっていることが多いので、事前に担当保育士に朝の会の流れを確認しておきましょう。普段行っている流れに沿って行うことで、子どもたちも安心して活動に取り組んでくれます。
幼児クラスでは「お当番」が会をすすめている場合がありますが、お当番に任せっきりにするのではなく、自分でも流れをしっかり把握しておきましょう。
指導案には、朝の会の流れや話す予定の言葉、予想される子どもたちの反応など、できるだけ詳しい書き方をしておくとよいでしょう。
【朝の会の指導案を書く際の確認事項】
・季節の曲は何を歌っているか
・朝のあいさつの仕方はどのようにしているのか
・出席の取り方は五十音順など順序が決まっているのか
・お当番の号令はどんな声かけなのか
・その日の活動内容や日にち/曜日を保育士はどう伝えているか など
【主活動】の部分実習
主活動は散歩、製作、リトミック、運動遊びなど多岐にわたります。
クラスの年齢や、子どもの様子に合わせて、遊ぶおもちゃや活動を変えたりと様々な工夫ができます。
主活動毎に事前確認をしておきたい事例を挙げていますので参考にしてみてください。
製作
製作は、子どもの年齢や成長段階によってできることが異なります。部分実習で製作を行う場合には、担当保育士に子どもがどのような作業ができるのか確認しておきましょう。
指導案を作成する際は、準備物や机の配置、どのような手順で製作を進めていくのかまで詳しく書くようにしましょう。また、作るだけで終了するのではなく、作った作品を使ってどのように遊びに繋げるかなども指導案に記載しておくと安心です。
【製作の指導案を書く際の確認事項】
・教具はどこまで使った経験があるか(のり・絵の具・クレヨン・はさみなど)
・最近製作した物はなにか(同じものを避けるため)
・普段は製作前の導入をどうしているのか
・製作物を使って遊んでよい保育室はあるか
室内遊び
室内遊びは保育室の広さや設備によって、できる内容が大きく異なります。
たとえば、せまい部屋で走り回ると子ども同士でぶつかってしまい危険ですね。
活動を行う場所やルール(ボールは使って良いのか)を確認したうえで、適切な書き方で指導案を作成しましょう。
指導案では、「事前に床にテープを貼っておく」「ボールを2つ用意する」など環境設定をどうするのかを明確にしておきましょう。また、遊びのルールや保育園での決まりごとを事前に確認し、それも合わせて指導案に記載しておくとよいでしょう。
【室内遊びの指導案を書く際の確認事項】
・ルールのある遊びの経験はあるのか(どんな遊びをしてきたのか)
・チーム分けをするときに事前に決まっているグループがあるか
・ホールや広い保育室を利用できる時間(クラスによって時間帯が決められている園もある)
・普段行っているリトミックの曲や体操はあるか
・巧技台を活用したサーキット遊びはしても良いか(平均台、跳び箱、マットなど)
室外遊び
室外遊びは園庭や近くの公園を使って行うことが多いです。
室外遊びは室内と違い、身体を思いっきり動かして走り回ることができます。
しかし、広い場所で自由に動き回ると保育士の目が届かなくなり、怪我をしたり、危険な場所に行ってしまう可能性があります。そのため、事前にどこの範囲まで行ってよいのか、遊ぶうえでのルールはなにかなどを子どもと確認することが重要になります。
どのような声かけをするかなども指導案に記載し、担当保育士に内容や書き方に問題がないか確認してもらうのがよいでしょう。
また、雨天の場合の代替案も用意しておくと、当日雨天だった場合にも慌てず活動を変更することができます。
【室外遊びの指導案を書く際の確認事項】
・室外遊びはどこで行ってよいか(園庭または公園など)
・室外遊びをする際のルールはあるのか(保育園独自のルールがあります)
・どのような遊びを普段行っているのか
・園庭にある遊具は使っても良いか
・ボールや縄跳びなどを使っていいか
【給食】の部分実習
給食を配膳する前の隙間時間に、部分実習をお願いされることがあります。
短い時間なので、手遊びや絵本を読んだりするのがよいでしょう。
子どもたちが興奮しすぎる活動をすると、落ち着いて給食を食べられなくなる可能性があるので注意してくださいね。また、配膳前から給食を食べ終わるまでお願いされる場合もあるので、給食の流れはしっかり把握しておき、声かけなども指導案に記載しておきましょう。
【給食の指導案を書く際の確認事項】
・普段は給食前にどんな活動をしているのか
・どのくらいの時間で部分実習をするのか
・子どもたちへの給食の配膳の仕方(量を減らす、規定量がある)
・「いただきます」をする前のルーティン(歌、あいさつ、お当番の仕事)
・保育士が一緒に食事をするか、しないか
【午睡前】の部分実習
午睡前の隙間時間に部分実習をお願いされることもあります。寝る前ですので絵本を読みきかせたり、手遊びをして、ゆったりと安心して過ごせるような活動にしましょう。
また、読み聞かせる絵本も、気持ちが高揚するような楽しい絵本ではなく、落ち着いた気持ちになれるような絵本を選ぶといいですね。
指導案には子どもがどこに座るのか、寝る前にどんな声かけをするのか記載しておきましょう。
【午睡前の指導案を書く際の確認事項】
・どの場所で子どもたちと活動すればよいか(着替えや布団を敷く場所などが決まっている)
・何時から午睡をするのか
・「おやすみなさい」をする前のルーティン(歌、あいさつ、お当番の仕事)
・排泄に行くタイミングはいつか
【帰りの会】の部分実習
帰りの会も、朝の会と同様に決められた流れがあります。幼児クラスはお当番が進行し、保育士はサポートやピアノ演奏だけという場合もあるため、流れを確認しておきましょう。
また、帰りの会では今日やった活動を振り返ったり、次の日の活動を伝えたりしている場合があります。どんなことを保育士が話しているか事前の保育実習中に確認しておきましょう。
【帰りの会の指導案を書く際の確認事項】
・季節の曲は何を歌っているか
・帰りのあいさつはどのようにしているのか
・お当番の号令はどんな声かけなのか
・今日の活動内容の振り返りや翌日のついて保育士はどう伝えているか など
部分実習の導入のコツ
前述のとおり、導入は子どもがスムーズに次の活動へ移るための重要なイントです。
最初のうちは考えるのも大変に感じるかもしれませんが、場面にあわせた絵本や手遊びなどを探して活用してみましょう。
手遊び
手遊びは次に行う活動にあわせて選ぶと子どもの気持ちが落ち着いたり、盛り上がったりして効果的です。たとえば絵本を読む前や話をする前は、最後が「手はおひざ」になる手遊びをすると集中して話を聞きやすくなります。主活動でテンションを上げたいときは、手遊びから始めて徐々に全身を動かす活動に繋げることもできます。
様々なバリエーションを知っておくと、場面にあった手遊びができて部分実習や責任実習で役立ちます。
絵本
『絵本』といっても、さまざまな種類があります。そのため、子どもに合わせて選ぶ必要があります。
絵本を選ぶときのコツは、4つです。
- 季節に合っているか
- 年齢にあっているか
- 読む長さは適切か
- 読む雰囲気(盛り上がる、寝る前、静かな空間)にあっているか
主活動が待っているのに、あまりにも長い絵本を読んでしまうと、子どもは飽きてしまいます。逆に、次の活動の準備等である程度時間が確保できるときに短い絵本を読んでも、間を持たせることができず効果的ではありません。
また、寝る前に大笑いして読むような絵本や身体を動かしたくなる絵本を読むと、穏やかに入眠できなくなります。
場面に合わせた絵本を選択できるよう、書店や図書館でいろいろな絵本を探しておくとよいでしょう。
絵本を決めたら、事前にしっかり読み込んでおくことを忘れないでくださいね。
部分実習は責任実習の第一歩!!
部分実習の指導案について、書き方やポイントをまとめてご紹介しました。
保育実習の最後に行う責任実習についても『責任実習・全日保育の指導案を書くポイント』で紹介しているのでご参考ください。
子どもの前に立つのは緊張するものですが、自分の言葉や絵本の読み聞かせで、子どもが反応してくれたときには、「すごい!」「こういう表情をしてくれるんだ!」といろいろな発見をすることができます。
そのためにも、事前の準備や担当保育士との打ち合わせをしっかりと行い、丁寧な書き方で指導案を完成させましょう。