東京都杉並区に6園が展開されている保育園「Picoナーサリ」。
「働く世帯の保護者支援をしたい」という強い想いで、その運営母体である社会福祉法人 風の森が立ち上げられたのは2014年。全国的に待機児童問題が取りざたされ、新しい保育園が次々と開園するなかで、「教育にこだわった保育園」として一線を画す理念のもと開園されました。
近年は、保育士の人数を国の配置基準の2倍に増やし、待遇を改善しているという面からも注目を集めています。
Picoナーサリが大切にする「教育」と「保育士の待遇」について、風の森 統括の野上美希さんとPicoナーサリ和田堀公園の園長・伊藤優里先生にお話をうかがいました。
ーPicoナーサリは「子どもの限りない能力の開花を目指す、教育にこだわった保育園」として、子どもたちにいろいろな経験をさせることにこだわっていらっしゃるとお聞きしています。園で行っている特別な取り組みについて教えてください。
野上さん:子どもの興味や意欲、感性を刺激し、引き出すために「特別教育」と私たちが呼んでいる取り組みがあります。これは、専門の講師をお呼びした教育で、英会話、茶道、リトミック、絵画、体操の5つのカリキュラムがあります。体操は月に2回、そのほかは月に1回ですので、週に1~2回、子どもたちにはこうした特別な時間が設けられていることになります。このプログラムは全園で共通です。美しいものを見る力、音楽をきいたり、体を動かしたりして感性を養う時間、そのための体験のアプローチとして大切にしています。
伊藤園長:こうした特別教育に対して、保護者の方には「家庭だけではできないことを経験させてもらっていると感じています」と大変喜んでいただいています。そしてもちろん子どももですね。先生方がみなさん教えることがお上手で、メリハリがあり、子どもたちが惹きつけられ楽しんでいます。
ープログラムは全園で共通とのことですが、どのようにしてこの5つに決められたのでしょうか?
野上さん:風の森を立ち上げたのは2014年ですが、この立ち上げには、そもそもは私の夫の実家が1950年創立の「久我山幼稚園」を経営している学校法人野上学園だったということが大きく影響しています。私が出産をきっかけに、野上学園の経営に携わるようになるなかで、「働く世帯の保護者支援をしたい」と保育園の事業をスタートさせました。
みなさまご存じかと思いますが、幼稚園は教育を行う施設です。70年以上にわたる幼稚園での幼児教育の実践。試行錯誤しながら新しいものを増やしたりするなかで、定着したものがこの5つです。
「茶道」は、久我山幼稚園でも60年以上にわたって行われている特別教育なんですよ。
ー茶道のお時間を見学させていただきました。「特別な時間だ」ということを、子どもたちも感じている様子でしたね。
伊藤園長:先生もお着物をぴしっとお召しですし、いつもの日常とは違いますよね。その佇まい、お茶室の雰囲気、子どもたちは全部感じ取っていると思います。将来、子どもたちが大人になったときに、お作法は覚えていないかもしれませんが、特別な場所での背筋が伸びるような感覚や雰囲気、正座をして先生のお話を聞くという経験、お茶の香りなど五感で感じたものは残っていくんじゃないでしょうか。
はじめての茶道のお時間だという子どもたち。開始前は少し緊張した面持ちで、そわそわと先生やお部屋を見まわしては、お友だち同士で視線を交わしたり、おしゃべりをしたりしていました。しかし、おもてなしの子どもたちが、お菓子を手に持ち、先生のあとをついて歩きだすその瞬間、誰もがきゅっと息を呑み、静かな動きを見守ることに徹していました。
子どもたちにとっての特別な時間のはじまりです。
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