2022年8月22日、埼玉県朝霞市で、元気キッズグループ代表の中村敏也氏と社会福祉法人どろんこ会の高堀雄一郎氏が主催する両社運営の園見学会「ASAKA HOIKU TOUR」が開催され、ホイシル編集部も同行取材を行いました。
元気キッズグループは、「地域の人びととつながり、ネットワークのなかで子どもを育てる」ことを、どろんこ会は「五感をフルに使った体験を通し、自分で考え、行動する子どもを育てる」ことを目指し、それぞれの理念に基づき、広く保育事業を展開されています。
両社はどちらも朝霞市でユニークなスタイルの保育園を経営されており、日本国内はもちろん、海外の保育関係者も視察に訪れるなど注目されています。
特に近年では、療育への関心の高まりや保育園の多機能化という観点から、児童発達支援の取り組みについて学ぶため、視察にいらっしゃる保育関係者も増えているそうです。
より多くの人に地域に根ざした新しい保育を知ってもらい、これからの子どもを取り巻く環境についての考えを深めてほしいとのツアーの目的に則り、各園の取り組みについてご紹介します。
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未来につながる子どもたちの無限の可能性をここから広げる
埼玉県の朝霞市、志木市、新座市の3自治体で24の施設を展開している元気キッズグループが大切にしているのは、「みんなちがって、みんないい」という考え方です。それはつまり、誰もがみなそれぞれ持っている多様な個性が受け入れられ、認められ、大切にされるインクルーシブな環境であるということ。発達に課題がある子どもも、定型発達の子どもも、みんな同じくありのままの姿を受け入れられることで、自分自身のもつ可能性を無限に広げていけるのです。
そのインクルーシブな保育環境づくりの仕組みのひとつが、小規模保育所、認可保育園、発達支援施設の隣接と連携です。
定員19名のワンフロアの小規模保育所「元気キッズ 朝霞根岸台園」と、1日の定員が10名の児童発達支援事業所「GENKI KIDS Pre School Curriculum」(以下「元気キッズPSC」)が隣接しており、その両施設と駐車場をはさんですぐのところに定員105名の認可保育園「元気キッズ 第二朝霞根岸台園」があります。
本ツアーではこの3園と、同市内に新しく開所した保育型の児童発達支援センター「元気キッズ チルズ」を見学させていただきました。
元気キッズPSCは、保育園や幼稚園に通う子どもを対象としています。隣接する元気キッズの保育園へスタッフが迎えに行き、1時間半の療育時間を過ごし、また園へ送り届けるというシステムです。
近隣の保育園、幼稚園にも同様に送迎し、療育を行っています。
就労している保護者も利用しやすい施設で、子どもは自分にあった療育を受けながらも、園での集団生活も送れます。
保育と療育の連携で、子ども・保護者・職員がともに笑顔になれる環境を作る
保育園と発達支援施設が近接しているため、保護者はお仕事に支障をきたすことなく子どもを療育に通わせることができ、支援の様子も保育園の降園の際に療育スタッフから直接聞くことができます。
療育スタッフにとっての保育園と療育施設が隣接しているメリットは、気になる子どもの保育園での過ごし方をすぐに見に行くことができ、保育士と的確に情報交換ができること。交換研修もあり、密に連携がとれ、療育対象となる子どもたちの園での様子を直接見に行くこともできます。
保育士にとっても、気軽に情報交換ができる療育における専門家が近くにいるというのは心強いことです。少し発達の気になる子どもがいれば、保育室まで様子を見に来てもらい、保護者にその気がかりを伝えたほうがよいか、伝えるのならばどのような言葉で説明すればいいのかという専門家の意見をもらうことができます。
保護者は安心して子どもと離れていられる時間を確保でき、子どもは安心できる人との関係、場所を得て、より力を伸ばすことができます。また発達支援スタッフと保育士は、それぞれの専門的な観点から手を取り合い子どもを見守り、支援できる理想の環境とも言えます。
母子分離の施設がないのであれば、新たに作る。
園と療育施設の連携がとりにくいのであれば、連携がとりやすい環境を作る。
前例のないこと、少ないことを次々と実現させていく中村氏が、ここ朝霞市に作り上げたインクルーシブな保育環境。
それが日本全体に広がっていく未来の実現は、中村氏のみならず子どもを大切にする人すべての願いではないでしょうか。
(1)元気キッズ 朝霞根岸台園
0,1,2歳を対象とした小規模保育所。笑顔のやさしい先生方が、子ども一人ひとりの遊び込む様子を見守ってくれています。
背の低い棚で仕切られた各コーナーには、子どもたちが一目見て好きな遊びを選べるように、電車、車、おままごと、ブロック、絵本とおもちゃが分類されています。
視察に訪れた際には、大人たちの視線をものともせず、恐竜コーナーで真剣に遊び込む子どもの姿が見られました。ワンフロアの保育室に、好きなコーナーに座り込んで遊びはじめたら、安心して自分だけの世界に浸れる環境づくりがなされています。
大人は、立ち上がるだけで部屋全体が見渡せて、19名の子どもたちがどこでなにをしているのかを把握でき、なおかつ空間を広く感じることもできます。
天井材に吸音素材が使われた声が反響しないつくりのおかげで、保育士も子どもも大きな声を出さずにゆったりしたコミュニケーションがとれるようになっているのも特徴です。
■元気キッズ 朝霞根岸台園
事業種別:小規模保育・月極保育・一時保育
定員:20名
職員数:10名
所在地:〒351-0005 埼玉県朝霞市根岸台5-3-52 クレーシタ1F-A
(2)GENKI KIDS Pre School Curriculum Station1
保育園や幼稚園に通っている発達に凹凸のある子どもを対象とした発達支援施設。小さな個室が2部屋、10名ほどが集まることのできる部屋からなります。元気キッズの療育の基本は、小集団。1対1、1対2の個別活動、5名程度の小集団での活動を通し、週ごとに新たな課題に取り組みながら、子どもたちがコミュニケーションを楽しみ、人とのつながりに喜びを見出せるような支援を行っています。
言語聴覚士、作業療法士、保育士が5~6名常勤しており、それぞれの専門領域を活かし、連携した療育ができ、それをさらに子どもが通う保育園での活動や環境整備につなげるための共有ができるのが何よりの強み。療育をこの施設内だけで終わらせないために、保育所等への訪問支援も行います。
■GENKI KIDS Pre School Curriculum Station1
事業種別:児童発達支援・保育所等訪問支援
1日定員:10名
職員数:9名(言語聴覚士、作業療法士、保育士が常時5名出勤)
所在地:〒351-0005 埼玉県朝霞市根岸台5-3-52 クレーシタ1F-B
(3)元気キッズ 第二朝霞根岸台園
朝霞駅から徒歩で10分弱のところにある認可保育園。
視察に訪れた大人たちに対し、「こんにちは」「なにみてるの?」「バイバイ」と臆することなく自然に話しかけてくるのは、 元気キッズ 第2朝霞根岸台園の4歳児たち。先生たちも、そうした子どもの言葉を制することはしません。
活き活きとした子どもたちの表情には、受け入れられているという安心感と自信があふれています。
天然木のあたたかみが感じられる広々とした玄関には、絵本が並んでおり、「絵本を買って寄付しよう」と書かれています。
ここにあるのは園の絵本ではなく、保護者が1冊200円で購入し、持ち帰れる「ありがとうBOOK」という取り組み。寄付で集まった本を販売し、その売り上げをNPOやNGOに寄付するという仕組みで、元気キッズでは各園に設置しています。
子どもたちが自主的に遊びを選べる環境構成を構造化した園内
園内は、オランダのピラミーデ保育を取り入れた保育環境が構造化されています。
保育室は、コーナー遊びの場所がそれぞれの空間を確保しながらも、ほかの遊びが目に入るひらけたつくりになるよう構成されており、どの部屋にも必ず「体を動かせるおもちゃ」が用意されているのもポイントです。
この環境構成も、2~3か月に一度はおもちゃを入れ替えるなど変化をつけているそうです。これも、子どもたちがいつでも楽しく過ごすための工夫のひとつ。
また、3歳児クラスの子どもたちは、その日の自分の気分で「おへやチーム」と「おそとチーム」のどちらに所属するかを決め、2つにわかれて活動を行います。もちろん、一度決めたらその日はどちらかでしか遊べないというわけではありません。
おそと遊びに疲れたら、おへや遊びに合流してもいいし、その逆もできる。
子ども自身が、自分がどこで遊びたいのか、なにをして遊びたいのかを自主的に決められる環境なのです。
■元気キッズ 第二朝霞根岸台園
事業種別:認可保育園・月極保育
定員:105名
職員数:26名
所在地:〒351-0005 埼玉県朝霞市根岸台5-2-18
(4)児童発達支援センター 元気キッズ チルズ
2022年6月に開所したばかりの「元気キッズ チルズ」は、児童発達支援センター。発達障害、ダウン症、肢体不自由児など、さまざまな課題感を持った子どもたちが通っています。経験豊富な保育士、心理士、作業療法士、理学療法士、言語聴覚士が一人ひとりに適した環境、課題を設定します。
施設の中心には、太陽の光を体いっぱいに浴びられる大きな中庭。動きに制限のある肢体不自由な子どもも安全に遊べる遊具が厳選されています。
中庭をぐるりと取り囲む建物には、ホール、保育室、4つの個室、医務室、静養室、厨房、事務室が並びます。
ホールにはボルダリングスペースがあり、高いところに登るのが好きな子どもが安全に遊ぶことができます。天井からつり下げられているボールは、ブランコなどほかの遊具にも変えられます。体の動かし方、感覚をつかむための道具はこのほかにたくさんあり、専門員が一人ひとりの課題や興味に合わせて選びます。
自分らしくあることを認められ、理解し合うために
子どもたちには、人とのかかわりを楽しいと感じ、人との関係性を築きながら自分らしく生きてほしい。そのためには、1対1の個別の療育に特化することなく、小集団で友だちと一緒の環境をつくる、いわゆる「ノイズ」のある環境で、まわりの人に自分の気持ちや意見を伝えることを身につけていくことが必要という考えから、かかわりあいが生まれる広いスペースも充実しています。
人との交流に疲れたときには、採光を控え目にした「静養室」で心を落ち着かせられる。
いろんな特性の子どもたちへの目配せに満ちた環境が作られています。
施設をぐるりとまわってみると、子どもが出入りする室内や廊下に洗面台やお手洗いなどの水場が見当たらないことに気づきます。ここでは、水場にはすべてクローゼットのようにスライド式のドアがついており、隠せるようになっているとのこと。
これは、水で遊ぶのが好きな子が多いという理由からだと中村氏談。
「水場を隠しているのは、注意されるきっかけを減らすための環境整備の工夫です。好きなことをして遊びたいという気持ちはなにも悪いことではないですよね。でも、施設内の水道で長時間遊ばせられるかというと、そうではない。我慢すること、させることを減らすためにこうして全部隠しているんです」
「違いではなく、似ているということを共有していけば、世界はもっと理解し合えると信じています」と語る中村氏。ここに通う子どもたちは、それぞれ違う困りごとを抱えていて、一見すると「違い」が目立つかもしれません。けれど、同じ時間を過ごすなかで「似ている」こともいくつも見つかるのではないでしょうか。
お互いの個性を認め、理解を深め、かかわりあうことの楽しさを見出していけるような支援が、この場所から地域へと広がっていくはずです。
ツアーに参加した奈良県奈良市のこだま保育園の國原園長は、「幸せな子が増えたら、幸せな町になると信じています。私たちの町では、私たちがその環境を作ります」とおっしゃっていました。
インクルーシブな育ちの環境は、きっとこれからますます広がっていくことでしょう。
■児童発達支援センター 元気キッズ チルズ
事業種別:児童発達支援センター
定員:50名
職員数:28名
所在地:〒351-0033 埼玉県朝霞市浜崎79-1
元気キッズ施設一覧はこちら
(取材・文:山口美生、撮影:中村隆一、編集:ホイシル編集部)
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