保育士は子どもたちの命を預かるとても責任感のあるお仕事ですが、その反面給料が安いというイメージを持たれてしまう傾向があります。
保育士は慢性的に人手不足で多忙な仕事と言われているなか、なぜ給料が上がらないのかと疑問に思う方もいるかもしれません。
そこで今回は、保育士の給料は安いのか、給料を上げるためにできることについて詳しく解説いたします。
なぜ保育士の給料は安いと言われている?
まず安いと言われていてる保育の給料が実際にどれくらいなのか見てみましょう。
【保育士の平均月給(年度別)】
令和元年度 | 244,500円 |
平成30年度 | 239,300円 |
平成29年度 | 229,900円 |
出展:厚生労働省/賃金構造基本統計調査
厚生労働省の統計によると、平成29年度からの3年間で月給が約1万5千円増えていることが分かります。
保育士の待遇についてニュースなどで度々報じられており問題になっていますが、国や自治体により少しずつ保育士の給料の見直しがはかられています。
しかし、国税庁の統計によると会社員の平均月給は「約35万円」と示されており、まだまだ保育士の給料は低いといえるでしょう。
ではなぜ保育士の給料が会社員より安いのかの要因について解説いたします。
出展:令和元年分民間給与実態統計調査/国税庁
公定価格が決められてしまっている
公定価格という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
公定価格こそ、保育士の給料が上がらない原因のひとつとなっているのです。
公定価格とは
公立保育園の保育士は地方公務員となります。そのため、経験年数に応じて公務員としての給料をもらうことができます。
一方、私立保育士の給料の財源の多くは「補助金」です。公定価格を基準とした補助金が財源となっているのです。
公定価格は、子ども1人当たりを単価として設定されており、主に公費負担と利用者負担(保育料)で成り立っています。
いわば公定価格は、国が定めた「子ども1人あたりに必要な保育の費用」です。しかしこの「子ども1人あたりに必要な保育の費用」が、保育園の実態に見合っていないといわれているのです。
現状では子どもに対する保育士の数の規定は以下のようになっています。
4歳児以上 | 30人につき保育士1人 |
3歳児 | 20人につき保育士1人 |
1、2歳児 | 6人につき保育士1人 |
0歳児 | 3人につき保育士1人 |
しかし実際には、この保育士の人数では保育は成り立っていません。休憩に入れない、連絡帳を書く暇のない保育士の方もいるようです。
また、多くの保育園では朝から夜まで開園しているため、早番や遅番の保育士も必要になります。基準通りでは保育士の手が回らないため、保育士を追加して配置している保育園が多いようです。しかし補助金は基準通りの金額しか支給されません。つまり保育士1人分として支給された補助金を、複数人で分け合っているのです。
実際に働いている保育士と公定価格の基準に基づいた保育士の数の差が、保育士の給料を低くしている原因のひとつといえます。
給与や残業時間などの待遇が業務負担に見合っていない
保育士は業務量が多いため、業務時間内に終わらず家に持ち帰り仕事をしている方もいるようです。
しかし、家に持ち帰り仕事をしている時間はサービス残業といわれ、給料は発生しません。園行事の時期ともなると、準備のために遅くまで残業し、さらに帰宅後持ち帰りの仕事をこなすこともあるようです。プライベートの時間や睡眠時間を削っても給料が上がらないことが、給料が安いといわれている原因のひとつといえるでしょう。
また、保育士は保育業務のほかに、さまざまな業務をこなしています。
・事務作業
・保護者対応
・玩具の消毒や汚れものの選択
・園内の清掃
・保育用品の在庫管理や発注
・行事の企画や準備
一般的な企業であれば業務ごとに別部門が行うことであっても、保育園では基本的にすべて保育士が行っているのです。日中の保育の時間にできない業務もあるため、シフトが終わってから事務作業をすることもあるようです。最近では事務作業にICTを導入し、業務の省略化を図っている保育園も増えてきています。今後より残業時間の削減につなげられることを期待したいですね。
保育士の給料を上げるためには?
国が保育士の処遇改善を図っており、保育士の給料は年々少しずつ上がっていますが、現場で働いていると実感できていないことが現状です。
保育士の給料を上げるためにできることとして、制度を活用するという方法があります。保育士が利用できる制度について具体的に解説いたします。
処遇改善制度
活用できる制度のひとつに処遇改善制度があります。
保育士は「重労働で給料が低い」という現状から、離職してしまうケースも少なくありません。
結婚などを機に一度離職し、保育の仕事に戻らないという滞在保育士の多さも問題となっています。
働く保育士や、現在約95万人いるといわれる滞在保育士の人材を確保するために、厚生労働省により処遇改善を目指す制度が新設されました。それが処遇改善制度です。
働く保育士に対して給料加算と、新しい役職を設けることでキャリアパス構築を促し、就労をバックアップする制度です。
処遇改善制度開始以降の保育士の年収の推移
保育士の給料を上げるため、2013年(平成25年)から段階的に処遇改善加算の制度が開始されました。
処遇改善加算が開始されてからの保育士の年収の推移がこちらです。
平成25年 | 310万円 |
平成26年 | 317万円 |
平成27年 | 323万円 |
平成28年 | 327万円 |
平成29年 | 342万円 |
平成30年 | 358万円 |
令和元年 | 364万円 |
厚生労働省のデータによると、保育士の年収は少しずつ上がっていることが分かります。
では、保育士の処遇改善加算とは具体的にどのようなものなのでしょうか。処遇改善制度は「処遇改善加算Ⅰ」と「処遇改善加算Ⅱ」の2種類あります。
まずは処遇改善加算Ⅰの内容について詳しく解説いたします。
処遇改善加算Ⅰ
処遇改善加算Ⅰは、「基礎分」「賃金改善要件分」「キャリアパス要件分」の3つで構成されています。
基礎分とは
基礎分は職員1人あたりの平均経験年数に応じて加算率を2~12%と設定されており、加算額については適切に昇給などにあてることが決められています。
平均経験年数は現在勤務している施設のほかにも、幼稚園や小学校などを含めて算出することができます。経験年数として算出できる施設は以下のとおりです。
幼稚園、小学校、中学校、高等学校、 中等教育学校、特別支援学校、大学、 高等専門学校、専修学校、 社会福祉事業を行う施設・事業所、 児童相談所における児童を一時保護する施設、 認可外保育施設・病院、診療所、 介護老人保健施設、助産所 |
賃金改善要件分
賃金改善要件分は「賃金改善計画書」と「賃金改善実績報告書」を提出している施設に対して加算されます。
加算率は5%で、平均勤続年数が11年以上の施設は6%となっています。
キャリアパス要件分とは
キャリアパス要件分は、
・役職や職務内容などに応じた勤務条件、賃金体系を設定
・資質向上の具体的な計画策定
・計画に沿った研修の実施や機会の確保、職員への周知
を行っている施設に加算されます。
処遇改善加算Ⅱ
つぎは処遇改善加算Ⅱについて紹介します。
処遇改善加算Ⅱは2017年(平成29年)から始まった制度です。
保育士の給料が安い理由として、役職が少なく昇給が難しいことがあげられます。
そこで役職に就くことで、給料加算につながる制度が新設されました。それが処遇改善加算Ⅱです。
いままで保育園には園長と主任保育士などの役職しかありませんでしたが、処遇改善加算Ⅱで新たに職務分野別リーダー、専門リーダー、副主任保育士という役職が追加されました。
職務分野別リーダーとは
職務分野別リーダーとは、保育士が最初に就くことができる役職で、一般保育士の上に位置する「若手リーダー」です。
処遇改善は月額5千円で、役職に就く要件は以下のとおりです。
・経験年数おおむね3年以上 ・担当する職務分野の研修を修了 ・修了した研修分野にかかわる職務分野別リーダーとしての発令 |
専門リーダーとは
専門リーダーは、職務分野別リーダーを経て、さらに専門的知識を高めた保育士が就くことができる役職で、主任保育士の下に位置する「中堅リーダー」です。
処遇改善は月額4万円で、役職に就く要件は以下のとおりです。
・経験年数おおむね7年以上 ・職務分野別リーダーを経験 ・4つ以上の分野の専門研修を修了 ・専門リーダーとしての発令 |
副主任保育士とは
副主任保育士とは、主任保育士の補佐的役割を担う役職で、専門リーダーと同じく主任保育士の下に位置する「中堅リーダー」です。
処遇改善は月額4万円で、役職に就く要件は以下のとおりです。
・経験年数おおむね7年以上 ・職務分野別リーダーを経験 ・マネジメント+3つ以上の分野の専門研修を修了 ・副主任保育士としての発令 |
キャリアアップ研修
処遇改善加算Ⅱで新たに追加された役職に就くための研修がキャリアアップ研修です。
職務内容に応じた専門性の向上を図るために創設されました。研修の実施主体は各都道府県となります。
キャリアアップ研修には8つの分野があります。役職ごとに必要な研修分野や修了する数が決まっています。
➀乳児保育 ②幼児教育 ③障害児保育 ④食育・アレルギー対応 ⑤保健衛生・安全対策 ⑥保護者支援・子育て支援 ⑦保育実践 ⑧マネジメント |
研修時間は1分野につき15時間以上で、研修を修了した保育士には修了証が交付されます。
修了証に期限はなく、全国どこでも有効です。
出典:平成30年度 子ども・子育て支援新制度 市町村向けセミナー資料 内閣府子ども・子育て本部
出典:平成29年2月24日 厚生労働省雇用均等・児童家庭局保育課
まとめ
国の施策が進んでおり、今後さらに保育士の給料は上がっていくといえるでしょう。
国が保育士の待遇を改善をはかるほど、保育士は社会的に需要が高い職業といえます。なにより子どもが好きな方にとって保育士の仕事は天職だと思います。
長く保育士として働くことで、月額の加算金がもらえたら、勤続への意欲もつながるでしょう。
さまざまな制度を正しく知り活用することで、保育士として新しい働き方が見つかるかもしれませんね。