保育士の採用試験では、実技試験や面接のほか、作文・小論文採用試験が課されることもあります。国語が苦手だった、作文の宿題が苦痛だったという人にとっては、悩ましい試験となってしまうかもしれません。
しかし、その場で一発勝負の実技試験や面接に比べ、作文・小論文採用試験は書き直しができるというメリットもあります。悲観的に捉えず、対策を練ることが大切です。
この記事では、作文・小論文の書き方や、保育士採用試験に頻出のテーマ、対策のポイントを解説していきます。コツを抑えて練習し、本番への自信につなげてください。
保育士採用試験の作文と小論文の違いとは?
保育士採用試験では「作文を書いてください」といわれる場合と、「小論文を書いてください」といわれる場合があります。この二つには、どのような違いがあるのでしょうか。
作文
作文は、受験者の経験や体験を下敷きにして、与えられたテーマに対する自分の思いを書いていくものです。作文では、受験者の人柄や物事に対する感性などを表現することができます。「~と思います」や「~が嬉しかったです」というような主観的な表現ができるのも特徴です。そのため、面接や履歴書での自己アピールの延長と捉えていいでしょう。
小論文
一方、小論文は、テーマに対し自分の意見を主張し、その意見を論理的な根拠で固めていくものです。テーマに対して自分の意見を書くところは作文と似ていますが、より論理的で客観的な文章を書くことが求められます。小論文を読んだ人に「この意見には説得力がある」と納得してもらえるように書くのがポイントです。
保育士採用試験の作文の書き方
作文では、自分の体験したエピソードを交えながら、「起承転結」を意識して文章を書いていきます。
エピソードは、「起承転」の部分にあたり、テーマへの答えは、「結」の部分にあたります。まずは結論部分を最初に決めてから、エピソードを探していくと書きやすいでしょう。
例えば、「私が目指す保育士とは」というテーマで、「子どものいいところを見つけられる保育士」という結論に持ち込みたいとすると以下のようになります。
【起】
私が目指す保育士は、子どものいいところを見つけられる保育士です。昔、私は運動するのが苦手な子どもでした。
【承】
運動会の日が迫ってくると、ため息が出てしまうほど憂鬱でした。
【転】
しかし、ある年、運動会のダンス演目で私の踊りを見て、ほめてくれた先生がいました。その先生のおかげで、初めて楽しく運動会に参加することができました。ダンスを好きになった私は、中学校でダンス部に入り、とても幸せな学校生活を送ることができました。
【結】
私はその先生のように子どものいいところを見つけ、個性を伸ばしていける保育士になりたいと思っています。(250文字程度)
保育士採用試験の小論文の書き方
小論文では、自分の主張したい意見とその根拠が非常に重要になります。
まずは、序論で自分の意見を主張し、本論で根拠を並べ、最後に結論でもう一度自分の意見を主張します。本論部分では事例や事実を交えて、第三者に対しても結論を納得してもらえるように心がけましょう。
例えば、「これからの保育士にとって重要なこと」というテーマを出題され、「子どもの自主性を育てること」という結論に導きたいとします。その場合は、以下のようになります
【序論】
私の考える「これからの保育士にとって重要なこと」は、子どもの自主性を育てることである。
【本論】
現代ではAI機器の発達が目覚ましく、数年で生活の仕組みがガラッと変わることもある。新しい環境を目にしたとき、ひるまずに挑戦していく自主性が求められる世の中がやってきている。
また日本は災害が多い国である。東日本大震災では、自分で考え避難した釜石市内の児童・生徒の生存率は非常に高かった。このように、いざというとき自分で考えて行動することは、命を守るのにとても大切なことと言える。
【結論】
よって、これからの保育士は、子どもたちの自主性を育てることが重要だと私は考える。そのためにも、子どもたちが自分で考え、取り組むことの楽しさを感じられるような保育をしていきたい。(300文字程度)
保育士採用試験における小論文・作文の書き方のポイント
小論文・作文の書き方が分かったところで、今度は小論文と作文の両方に共通するポイントを見てみましょう。
人物像が見えるように書く
作文・小論文採用試験では、受験者の人間性や保育士としての素質が採点のポイントになります。
お手本の書き方や例文をそのまま写したような内容では、受験者がどんな人間なのかを判断することができなくなってしまいます。採点者は凹凸のない綺麗な文章を読みたいわけではありません。
あなたにどのような個性があるのかを、作文・小論文採用試験を通して見定めようとしています。文章を通して自己アピールができるように、自分の人物像が見える書き方を心がけましょう。
一貫性のある内容にする
結論に合わせて、一貫性のある書き方をすることはとても大切です。
エピソードや根拠を語るとき、いろいろな事柄を盛り込もうとしてしまうのはよくあることです。しかし、中盤に文章を詰め込みすぎると、結論から脱線してしまうこともあるので注意が必要です。
指定された文字数に納まるよう、結論に繋がる部分のみを取り出して書いていくように気を付けてください。
保育士採用試験の作文・小論文の内容は?
ここで、保育士採用試験の作文・小論文の具体的な内容を見てみましょう。
頻出のテーマはどんなもの?
保育士採用試験作文・小論文の頻出テーマには、以下のようなものがあります。
・あなたはどんな保育士になりたいか
・保育士を目指した理由は何か
・学校で頑張ったことをどのように保育士の仕事に活かしていくか
・保育士にとって重要なことは何か
・自分が考える理想の保育について
・採用された場合、どんな保育をしていきたいか
・今後、保育士が重視すべき役割は何か
・幼児教育は、なぜ重要だと考えられるのか
・児童虐待問題を防止するためには
保育士としての役割や理想像を問うものが頻出テーマになっているということが分かります。また児童虐待や幼児教育など、最近注目されている保育関連の話題についても出題されることがあります。
文字数
作文・小論文試験の設定文字数は園によって異なりますが、800字程度(原稿用紙2枚分)に指定されていることが多いです。時間が足りない場合でも、指定文字数のうち最低でも8割は埋めるようにしましょう。
試験形式
作文・小論文試験の形式としては、次の二つのパターンがあります。
・事前にテーマを与えられて、家で書いてくる(面接時に持参、もしくは応募書類に添付する)
・テーマをその場で与えられて、即興で書く
事前にテーマを与えられている場合は、テーマについてじっくり考えることができます。しかし、テーマが試験会場で発表される場合は、時間内に構成を組み立て、文章を仕上げる能力が求められます。
保育士採用試験の作文・小論文対策の仕方
作文・小論文対策をするには、具体的にどうしたらよいのでしょうか。
とにかく書いてみる
作文・小論文対策には、とにかく自分で文章をたくさん書いてみることが大切です。頻出テーマについては、文字数800字程度の内容で一通り練習してみてください。
書き出す前に、構成を意識した下書きをするのが練習のポイントです。まずは、テーマに対する答えを決めます。次に、作文ならば答えに繋がるエピソード、小論文ならば根拠となる事柄を箇条書きにしていきます。文章の要素を最初に書き並べることで、一貫した文章を書きやすくなります。
時間配分を意識する
採用試験の場では、時間内に作文・小論文を書き上げることが求められます。文章の構成を箇条書きにし、実際に書き出して原稿用紙を埋めるまで、なるべく短い時間で終えられるように練習します。
志望している園の過去問が手に入るなら、そこで設定されている時間内に文章を書き終え、見直しまでできるように練習を重ねましょう。
自分で読み直し、第三者にも見てもらう
一度文章を書き上げたら、誤字脱字がないか、文章の流れに不自然さがないかを自分で読み直します。
ただし自分の書いた文章の場合、なかなか間違いに気づけないこともあります。
そこで、家族や友人、学校の先生など第三者に読んでもらい、意見を聞きましょう。いろいろな人に添削してもらい、改善できる点がないかを探っていくことが重要になります。
最新の保育情報にアンテナを張る
現在注目されている保育の問題、法律や制度の改正などの最新の保育事情に対しては、ニュースや新聞などで積極的に触れるようにしましょう。
小論文で持論を固める根拠に使えるかもしれませんし、テーマとして取り上げられる可能性もあります。また、面接の場で意見を聞かれることもあるかもしれません。保育関連の話題を聞いたら、「自分はどんな意見なのか、その意見にはどういう根拠があるのか」を意識するようにしてください。
原稿用紙と日本語の使い方を確認しておく
どんなにいい文章を書いたとしても、基本的な国語の表現が間違っているとマイナスの印象を与えてしまいます。
まずは、句読点の打ち方や段落最初の字下げなど、原稿用紙の正しい使い方を復習しておきましょう。
また、文章を書くときは文末表現を統一するのがルールです。敬体(「~です」「~ます」)と常体(「~だ」「~である」)が混じらないように注意してください。
自分の考えや気持ちを整理して書こう!
作文・小論文の採用試験に、正しい答えはありません。大事なのは、自分がどんな人なのかを採用担当者に知ってもらうことです。作文・小論文では、模範解答的な文章ではなく、自分にしか書けない内容を書くように心がけましょう。頻出テーマは、あなたの保育士としての姿勢や理想を問うものが多く出題されます。保育士を志した気持ちを思い出して、挑んでみてください。