注目の園紹介

100年変わらぬ保育の本質。保育園という「場」から生まれる地域の育みあい

2024年に開園から100周年を迎える清高りとるぱんぷきんず(福岡県豊前市)。
大正13年から、今や4世代にもわたる多くの子どもたちが育ち、巣立っていき、「いつでも帰ってこられる場所」として地域に根づいています。この場所からはじまった「時代にふさわしい新しい保育の道を切り拓く」という社会福祉法人 清香会の理念は、地域を超えて東京、横浜へ進出し、実践の場を増やしています。

保育の現場から見るこの100年の社会の変遷、そしていつの時代も変わらぬ子どもの育ちについて、社会福祉法人 清香会の理事長・大江 佳子先生にうかがいました。(2024年6月取材)

100年前も100年後も変わらない、子どもの発達の本質を守る

1924年に福岡県豊前市に開園した清高保育園(現・清高りとるぱんぷきんず)からはじまった社会福祉法人 清香会の保育事業。
1937年 日中戦争、1945年の第二次世界大戦終戦、そして高度経済成長期とバブル崩壊後の低迷期。日本の社会が大きく変わるなかで、保育園に求められることも時代とともに変わってきました。

変化はありますね。なにがその変化を生み出しているのかというと、国の動向です。どの国、どの場所で過ごしているか、国がどんな施策を出すのかにより人々の生活が変わり、それにより保育園に求められることが変わります。
高度経済成長期の頃は、地方から都市部に急激な人口移動が生じ、核家族が増加しました。経済成長を支えたのは長時間労働。その長時間労働を支えるには家庭を守る専業主婦が必要。そうした背景から生まれたのが、3歳までは母親が育てるのがよいという「3歳児神話」です。
そこから平成の後半には、生産労働人口が減って、女性にも働いてほしいから保育園を増やし、待機児童問題解決に力を注いできました。今新たに浮上しているのは、女性が働き続けるための「育休延長」という制度です。保護者もどうしたらいいのかと翻弄されています。

国の成長にとっては、そのときどきでそれがよかったのでしょう。

保育園のあり方は、こうした国の方針によって左右される面もありますが、「人間の本質を育む」という園の役割は変わりません。つまりは、子どものために「子どもの発達にいちばんいいこと」をする。それをずっと大切にしてきました。

子どもの発達にとって大切なのは、赤ちゃんのうちから「たくさんの顔を知る」ということです。つまり、たくさんの人と出会い、関わるということですね。

私たちの掲げる保育のコンセプトに「人は人によって人になる」というものがあります。
子どもたちはまわりの人たちから影響を受けて、さまざまなことを学び、吸収して成長していきます。見ること、マネることから学びがはじまるということです。

当たり前ですが、人って一人ひとりそれぞれ違いますよね。

多様な生き方、多様な人と関わることによって、子どもは自分自身も社会の一員であると認識します。
人間は社会のなかで生きる動物なので、たくさんの関係性のなかでたくさんの人を見て学ぶことでより成長していきます。

ですので私は、両親ともに働き、早い時期から保育園に預けて、子ども自身が社会の一員だという認識を持つことが大事だと思います。

だってね、100年以上……もっと大昔から人の生活としての営みは変わっていませんから。
歴史的に見て、今の核家族で子どもを育てる環境というのはわずか数十年の歴史しかありません。
かつては働き盛りのお父さん、お母さん世代は生計を立てるために働き、おじいちゃん、おばあちゃん、またきょうだいたちが田畑のそばで小さな子どもの面倒を見ていました。

たくさんの人たちと関わりながら育っていたんですね。

ほかの動物は生殖機能がなくなったら死んでいくなか、人間は生殖機能がなくなっても生きながらえます。それは、老年期になったときに次の世代を育てるという役割をもっているからではないかと思います。

両親は働くもの、だから子育ては周囲の人が支えるという仕組み、保育園はその代表です。

集団のなかで個性と社会性を発達させることは、子どもの成長にとって大きな意味を持ちます。

また子どもの発達にはタイミングが大事で、モンテッソーリはこれを「敏感期」と呼んだのですが、この発達の敏感期には集中現象が現れ一気にさまざまな能力を吸収・成長します。

例えば逆上がりや自転車、読み書き等、獲得したい能力は多岐にわたります。そのため私達保育者は子ども自身が「やりたいこと」「興味をもったこと」を選択できるように、常日頃から、子ども達が選択できるように発達に応じた環境を整えていくことが役割です。

自ら選択し、最後までやり遂げ達成感を味わえる環境で過ごすことで、子どもたちは「自分はできるんだ」という自己肯定感を育むことができます。

ただ、身近に子育て経験者のいない若いご両親はいくら本やネットで「子育て」を学んでも、経験がありませんから、発達欲求を満たす環境を作ることは難しいものです。私だってそうですよ。大学で幼児教育を専攻して知識はあったけれど子育ての経験はなかったので、子どもが離乳食の時期に赤い便をしたときには驚いて母に電話で相談したものです。スイカを食べたあとだったから…という笑い話ですが、経験がない「初心者マーク」の私には判断できませんでした。
知識だけではなく、さまざまな実体験を重ねることで、[生きていくための知恵]が育まれるのだと痛感した経験です。

私は、小さなころから社会のなかで育ち、人間の本質を育むことこそが「子どものため」だと思っています。ですので、保護者の方は、育休を延長したほうがいいんじゃないかとか、3歳までそばにいたほうが…などと思い悩まずに、早い時期から私たちと一緒に子どもを育てようと思っていただけることに罪悪感をもたないでほしいと思います。

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